2010年11月13日

尖閣問題 〜中国船船長釈放と尖閣ビデオ流出〜

尖閣問題ですが、報道される情報が少ないために陰謀論や愛国無罪的な感情的意見が非常に目立ちます。

感情的な意見は理論的に破綻している場合も多く、実はこの理論破綻こそが敵にとっての大きな攻撃箇所であり、かつ情報操作をより有効にする要素です。

今回は「中国船船長釈放」と「尖閣ビデオ流出」を例として情報を分析してみました。


(A)中国船船長釈放

このニュースが流れた時、ネット上では決定を下した那覇地検への非難が渦巻いていました。
ただきちんと情報を吟味すると、政治的判断は地検ではなく「官邸主導」だったことが分かります。

9/24の時点で中国船船長釈放について考察したツイートをまとめて下さったものが↓こちらになります。

この件で注目すべき点は、以下の点です。

(1)当初、地検は起訴を念頭に動いていた(*1)
(2)当時の前原国土交通相は「日本の国内法に基づき粛々と対応する」と述べている(*1)
(3)裁判所は勾留延長の決定を出している
(4)処分保留、釈放の理由に「日中関係の重要性」が入っている
(5)処分保留後の記者会見で次席検事が「衝突の事実は明白」と言っている

1及び2を見ても明らかなように、当初は地検も政府も通常の事件と同様の対応を行っています。
そして、3にあるように裁判所は勾留延長の決定を出しています。
勾留延長は取り調べを延長してより精査して事実関係を調べる必要がある場合に行われます。
これを裁判所が認めたと言うことは、最善を尽くして粛々と対処することが既定路線だったと分かります。
また、5にあるように処分保留での釈放にもかかわらず、その後の会見で「衝突の事実は明白」と発言しており、これは処分保留という決定と矛盾します。
同時に処分保留の理由に「日中関係の重要性」という“本来入ってはならない政治的な理由”が入っています。
この時点で「なにかおかしい」と考えなくてはなりません。

警察や検察が政治的判断をすることは権限を越えた行為であり、もし那覇地検自身がこれを行ったのであれば司法システムの崩壊を意味します。
一例としてあげるなら、仮に別件で中国人犯罪者を逮捕しても「日中関係の重要性」を理由に起訴出来なくなるからです。
検察は勾留延長までして取り調べを行っており、釈放後の記者会見でも事実は明白と述べていること、あえて処分保留の理由に政治的判断があったことを示している、つまりこれは「不本意だけども横やりが入ったので起訴出来なかった」という事に他なりません。
権限的にも検察より上位の権限がなければ決定不能ですので。
その後の仙谷官房長官の発言を見ていると政治的介入が行われたことは、ほぼ間違い無いといえます。



(B)尖閣ビデオ流出

尖閣ビデオが流出した翌日から、ネット上では「流出した人は無罪」「内部告発者を守れ」と言う論調の発言が大量に流れていました。
しかし、この考え方は「ビデオの内容」と「流出という公開手法」を混同したものと言わざるを得ません。

11/10の時点で尖閣ビデオの流出に関して考察したツイートをまとめて下さったものが↓こちらになります。

まず、「ビデオの内容」と「流出という公開手法」は完全に分離して考えなくてはなりません。
もし「こんな酷い映像を公にしたのだから、流出は正しい」と言う方がいたら、「仮にビデオの内容が全く逆で“巡視艇が漁船にぶつけに行っていた画像”だとしたら、貴方は流出を支持しますか?」と問う必要があります。
上記の意見の人の中には、「そんなビデオだったら流出したら国益に反するから、流出者は厳正に処分すべし」という意見になる人も多くいると思います。
流出した「対象物」と、流出という「公開手段」は何ら関連性はないのです。
目的のためにはいかなる手段も正当化される・・・これこそ『愛国無罪』の考え方です。
また公益通報者保護法で保護されるので無罪と言う論調もありますが、これは間違いです。
なぜなら、今回のビデオ流出は公益通報者保護法の第3条(*2)に定める通報対象事実に当たらないからです。

もちろんこのビデオが秘密にあたるかどうかという点もありますし、それに関しては裁判所の判断を仰ぐ必要があります。
また、組織内部で非公開を決定した期日より前のデータ持ちだしか、あとの持ち出しかでも判断は変わるでしょう。
しかし海保組織として考えた場合、流出という公開手法は認めるわけにはいきません。

組織としては認められない手法、しかしビデオの内容は国民に公開されるべき・・・
ならば、公開したうえで自ら名乗り出て処分を求めればいい。
多くの国民は署名等で支援するでしょうし、見えないところでの合法非合法含めた処理から身を守る事にもなります。
今回の案件なら不起訴になる可能性も高いですし、起訴されても公判の維持は難しいでしょうから充分に勝ちが見込めます。

政府が隠していた情報の流出では、類似の事件として「ペンタゴン・ペーパーズ」が上げられます。
ペンタゴン・ペーパーズはベトナム戦争に関する報告書で、この中ではベトナム戦争泥沼化の過程に対する情報隠蔽等も含めた詳細について分析がなされたものです。
ベトナム戦争に踏み切った政府判断の闇を浮き彫りにしたこの報告書は、内容が内容なので当然のことながら非公開だったのですが、編纂者の一部がNYTの記者へコピーを手渡し、1971年に大々的に報道されることとなりました。
ニクソン大統領および米政府はこの公開に激しく動揺し、記事の差し止め請求から果て情報流出者の国家反逆罪適用示唆まであらゆる妨害工作を行ったのですが、国民の力で最終的には敗北して、この事件とウォーターゲート事件がニクソン大統領を退陣に追い込むこととなります。
ペンタゴン・ペーパーズで流出を行った編纂者の一人ダニエル・エルズバーグらは「正々堂々」と「法に基づき」、「司法の場で全てを明らかにする」事で国民の支持を得、国民はそれを支持する事で勝利を手にしました。
今回の一件は(構図としてみれば)日本の「ペンタゴン・ペーパーズ」だと言えます。
米国民に出来て日本国民に出来ないわけがないと思いませんか?

法の適応を曲げて守るのではなく、法の下で堂々と勝利を勝ち取る。
そのために国民が出来ることを行う。
それが一番重要だと思います。


(*1)『尖閣沖衝突 中国船長を起訴へ 検察「厳正に処分」』(MSN産経)
(*2)『公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令
posted by FumiHawk at 15:09| Comment(4) | TrackBack(0) | 情報分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする