民主党内部のゴタゴタ振りは眼を覆わんばかりのひどさでしたし、否決の結果自体には個人的に大変肩を落としました。
だって、現内閣じゃ被災者救済なんて無理ですから。
ただ、同時に「自民は王道を取りすぎている。自民党は衆院では議席数で弱者であり、それを踏まえた戦い方をしていない」という違和感をこの一連の動きでずっと感じていました。
そして、その中には「否決された場合の対処が出来る戦い方ではない」と言う点も引っかかっていました。
特にアピール、プロパガンダ等情報戦が情勢を左右しかねない局面だったこともあり、今回は「情報戦として観た不信任案否決」について纏めました。
◆情報戦が戦局を左右する一戦
政治の舞台のプレーヤーは政治家です。
そして政治家は選挙によって選ばれます。
選挙で政治家を選ぶのは国民です。
ゆえに「国民へどうアピールするか」は政治にとって非常に重要になります。
マスメディアが民主党寄りの報道姿勢であることを考えると、アピールにおける下手な失点はメディアによって誇張拡大されることも珍しくありませんので命取りになります。
現状の自民党は「如何に失点せず、なおかつメディアの報道で真意を曲げられないアピールをするか」という非常に難しい命題をこなさなければなりません。
また、今回は民主党の造反議員を如何に巻き込むかが可決のための至上命題でした。
この点では「民主党議員に対してどのようなアピールを行うか」が重要なポイントでした。
いずれにしても、今回の不信任案は情報戦が非常に重要だったと言えます。
◆今回のポイント
不信任案で考慮すべきポイントは下記の2点でした。
- 大義はあるか?
- 与党造反議員に大義を与えられるか?
また与党造反議員に大義を与えられなければ、内閣の造反切り崩しを抑え込むことが出来ません。
ですので、谷垣総裁はこの2点を満たす言動を行う必要がありました。
◆「大義」を成立させる戦術とは
不信任案を出す事の大義は、時期と言動に分けられます。
時期に関しては(1)一次補正成立後、(2)通常会期終了の3日前位、(3)二次補正成立後、の3つが望ましいです。
これらのタイミングであれば、(1)と(3)の場合は「予算が通ったが実行は現内閣では無理」と言う大義が通ります。補正予算は成立しており、被災者救済への影響は最小限に抑えられますので失点もありません。
(2)は「被災者救済のための会期延長しなかったから」という、更に直球な大義が立ちます。
と言うわけで、時期的な大義は正直言って今回は立ちません。
下手すると、復興基本法成立を遅らせたとのそしりを受ける可能性だって有ります。
なので、ここは言動で大義を与えるべきでした。
そんなに難しい話じゃないんです。
(1)党利党略ではない、(2)選挙を望んでいるわけではない、この2点をアピールすれば良い。
(1)は政治家としての選択と言う事を、(2)は被災者救済のための不信任案であるという事をアピールすることになります。
具体的には、以下のような発言になります。
『我々は、行政府である内閣の機能不全により被災者救済に支障が出ていることを憂慮し、立法府としての責務を果たすために不信任案を提出する』と宣言するだけ。
続けて『我々は「民主党」を責めているわけではない。内閣がきちんと機能するのであれば、震災後の非常事態を乗り切るために団結すると言う選択肢は充分にある。それを妨げているのは現内閣である。』とすればいい。
これで、先の(1)(2)を満たすことが出来ます。
ターゲットはあくまで菅内閣、選挙したいからではなく被災者救済の為にと言う大義を立ててアピールすることで、否決されてもなお不信任案提出の正当性が保たれます。
谷垣総裁も採決前に党本部での記者会見で「解散できる状況ではない。解散は、責任ある政治家であれば、選ばないし、選ぶべきではない」と述べているのですから、党首討論の場で明言すれば良かったわけです。
党首討論の場で前述のように明言すれば間違いなくニュースになりますし、その際の引用には「立法府の責務を果たすために」と「民主党との連携可能性を示唆」との内容が入るのはほぼ間違い有りません。
その部分を外すと不信任案提出の経緯が説明出来ないため省略しにくいので、国民へ大義のアピールとなる事が期待出来ます。
また、党首討論の場でそのような発言を残しておけば、否決されても「与野党連携を妨げているのは内閣だ」と主張出来ますし、解散うんぬんといった難癖にも「内閣にNOを突きつけたのであって、選挙を求めたわけではない。」と反論出来ます。
◆「与党造反議員に大義を与える」を成立させる戦術とは
与党議員には内閣から否決への圧力が当然あります。
鳩山氏や小沢氏のグループは不信任案賛成に動いていましたが、最終的には切り崩されました。
これに対して自民党側から可能だった戦術は多くはありませんが、数少ない戦術の中で最も有効なのは「与党造反議員に大義を与える」ことです。
これは以前のエントリー【おQ層を説得する『たった一つの冴えたやり方』 -情報戦戦術01-】で書いた内容の派生系になります。
つまり「造反の大義と言う名の逃げ道を与えて、造反への心理的ハードルを下げてやる」訳です。
これは、上のエントリーの「マスコミに騙されていた」という逃げ道を与えて、思考の方向性を変えやすくしてあげる手法の変法です。
前述の発言のように「立法府の責務を果たすために」と「民主党との連携可能性を示唆」をしているなら、あと一押しでこの部分は完成です。
ポイントは2点「政治家=立法府の責任を思い出せ」と「造反こそが国民のためである」というメッセージを議員に向けて再度伝えること。
具体的には、以下のような発言になります。
『民主党の良識ある議員の方々からも、現内閣への疑念や不信の声が聞かれている。民主党の方々、これを正すことこそが立法府の、そして与党である民主党の責務ではないのか?党利党略や選挙政局ではなく、政治家として国民のために行動すべきであるし、この場にいる議員の方々にはそれが可能であると信じている。』
これで、造反しなかった場合の心理的ハードルが上がり、自民が選挙自体を望んでいないという点で造反への心理的ハードルは下がります。
また、これだけ言われて造反しなかったら「民主党議員は党利のために政治家としての魂を売った」と追及してあげればいいのです。
オマケで『不信任案が提出された場合、これに反対すると言うことは、菅内閣のこれまでの言動を支持した上で信任する事である。その点も充分にご承知おきの上で、民主党の方々は各々が国会議員として国民のために最良の判断をして頂くように望む。』と付けられれば、造反しなかった場合の心理的ハードルは更に上がり、アピールとしては満点です。
せっかく党首討論の場でこれまでの不手際を追及したわけですから、最後にたった数行のメッセージを追加するだけで「国民に対するアピール」と「造反議員への後押し&プレッシャー」を仕掛けられるのです。
これが情報戦の特徴と言えます。
◆今後さらに情報戦の重要度は増す
安倍内閣、福田内閣、麻生内閣・・・これらの内閣はやるべき事をキチンとやっていたにもかかわらず、マスコミの「本筋ではない非難」で追い詰められました。
マスコミの行動は正に「大衆誘導」であり、つまりこれらの内閣は「情報戦で負けた」のです。
メディア報道がおかしくなって久しいですが、今後この傾向が大幅に修正される事は期待薄です。
であれば、情報戦戦略は今後の政治にとって、これまでとは比べものにならないほどに極めて重要となります。
そして、偏った報道に誘導されることは国民にとってもマイナスしか有りません。
今回の不信任案否決は、自民党にとってこの情報戦略に大きな弱点があることを露呈させる結果となりました。
今後のためにも、自民党には情報戦やプロパガンダ、PRの重要性を認識して頂ければと願ってやみません。
ラベル:内閣不信任案