「世の中には無色透明な情報は滅多にない」=情報には必ずバイアスがかかっている
「事実は一つでも、真実は見る角度によって異なる」=同じ情報でも、取材者、発信者、読者の立ち位置によって伝わる内容に差が出る
「人は無色透明な事実より、好みの色の真実を見たがる」=複数の情報があった場合、自分の心情に近い情報を重要視しやすい
「情報リテラシーを身につける」とは、情報が如何に伝わってきているかを知る事でもあります。
その中でも重要なのは「調べるスキル」です。
どんな情報でも素のままではなく、ちょっと掘り下げて調べてみると本当の姿が見えます。
もちろんそれだけで騙されなくなるわけではありません。
ただ、情報リテラシーが高ければ、不本意な選択をする事は格段に少なくなります。
と言うわけで第2回の今回は、広く行われている手口の実例の一つをご紹介。
テーマは「目くらましは情報操作の常套手段」です。
昨年の衆院選で民主党政権が誕生したあと、新政権が最優先で行った事の一つが「平成21年度補正予算の執行停止」(*1)でした。
これは子供手当ての財源を捻出するために行った事で、当時最優先されるべき景気対策を無視した行為は株価の急落となって日本経済に深い傷を残しました。
さて日本経済の傷はともかく、この執行停止で一番話題になったのは厚生労働省の分です。
なぜなら、報道された厚労省の執行停止分には「未承認薬・新型インフルエンザ等対策基金679億円」(*2)が含まれていたからです。
インフルエンザが蔓延中にもかかわらず「未承認薬・新型インフルエンザ等対策基金679億円」を削るとの情報を見たネットユーザーは驚愕し、Blogや掲示板等に「インフルエンザ対策を削るなんてアホか!」との悲鳴があふれました。
結局、政府からの情報で「ワクチンは確保する」との報道がなされ、これらの騒ぎは徐々に鎮火。
最終的にはインフルエンザがそれほど問題にならなかったため、忘れ去られる事になりました。
で、この流れのどこに情報操作があるかというと、ずばり「未承認薬・新型インフルエンザ等対策基金」という項目名です。
厚労省が執行停止の内訳概要をPDFで公開した当時に、当方で分析した資料から表を下に引用します。
基金で複数年執行する(要は一部先送り)未承認薬の開発支援も含めた誤魔化しのない数字にしていますので、報道の679億より大きくなっていますが、削減対象に直接的なインフルエンザ関連費用はありません。
新型インフルエンザ対策事業(1,279億円)の一部がワクチン確保に流用されたという変更などはありますが、ネットで騒ぎになったような事実はありません。
但し、表の意味するところはそれよりずっと残酷です。
なぜなら削減された項目は、新薬や未承認薬が必要な患者の多くにとっては生命を左右しかねない問題だからです。
がん、小児等の疾患重点分野における適用外薬の開発支援はほぼ9割の執行停止ですので事実上の廃止で、この執行停止でそれまで検討してきた44品目を9品目に絞り込まざるを得なくなりました。
未承認薬の開発支援も約7割の執行停止で、適用外薬と同様です。
同時に医薬品等の審査の迅速化予算も6割ほど削減されており、タダでさえ遅いと言われている薬の承認作業は当分改善しそうにありません。
ではなぜこれらの予算が執行停止やり玉に挙がったのか。
それはこれらの項目が「単年度で終わらず、結果が出るのに時間がかかる」からです。
今回の執行停止は、恒久的な支出となる子供手当ての財源確保が目的です。
と言うことは、「単年度のみで支出が終わる予算を削っても意味が無い」のです。
何度も大騒ぎをするなら、本筋ではない騒ぎを起こしてそちらに目を向けさせ、その隙に本命の問題を通してしまう。
まさに目くらまし戦術です。
そして、その方針は「票になりにくい、こどもや病人といった弱者の切り捨て」であることは一目瞭然。
・・・なのですが、当時はまったく話題にもされませんでした。
このように目くらまし戦術は案外有効でして、結構情報に詳しい人でも盲点だったりするようです。
実は先日Twitterでお会いしたある方がこの点をご存じなかったので、情報拡散にご協力頂きました。
ここで話が終わると「弱者切り捨てじゃない、この結果は補正予算だからだろ!」と言う反論が来るでしょうから、当方で以前まとめた「平成22年度予算案の主要事項一覧表」のPDFも掲載しておきます。
この本予算案は例の事業仕分けをしたあとに作成されていますので、ここに民主党の本音が隠れているわけです。
平成22年度厚生労働省予算案の主要事項一覧表(増減及び増減率を算出して追加)[pdf]
厚労省の事業仕分けは12月12日、上記一覧の元である厚労省作成のPDF資料(平成22年度厚生労働省所管予算案関係)の公開日は仕分け後の12月25日ですので、事業仕分けの結果も加味した物になっています。
ちなみに平成22年度予算案は、平成21年8月に作られたものが政権交代で廃止、新政権で10月に再作成されたものの事業仕分けがあったため、事業仕分け後に再々作成されています。
平成22年度予算案(再々作成版)は27兆5,561億円で、再作成の概算要求からは1兆3333億円減(-4.6%)です。
とは言うものの、前年予算(25兆1,568億円)からみると2兆3,993億円増(+9.5%)と実は増えています。
あれだけ赤字国債発行しているのだから当たり前ですが。
そして予算が1割近く増えている状態で大きく減っている項目は、民主党にとって重要ではない項目、つまり「民主党が国民に犠牲を強いる対象」ということになります。
逆に、1割を大幅に超えて明らかに伸びている項目は、民主党にとって重要な項目であると言えます。
以上を踏まえた予算案のポイントを簡単にまとめると、以下の通り。
・大きく伸びた項目の中での目玉(民主的に)はもちろん
「子ども手当の創設(1兆4722億2800万、新規)」
・その他上昇率ベースでの注目は
「緊急雇用対策(7335億500万、+86.73%)」
「雇用創出(5486億3600万、+83.16%)」辺り
・総額が増えてるのに10%以上削減されている予算で注目すべき項目は、
「安全で良質な水の安定供給(-195億6100万、-41.53%)」
「医師確保・医療人材確保対策等の推進(-101億1800万、-27.35%)」
「若者・女性・高齢者・障害者等の就業実現及び両立支援(-331億4000万、-26.44%)」
「発達障害者等支援施策の推進(-1億2900円、-17.22%)」
「健康危機管理体制の強化・推進(-9400万、-13.17%)」
「自殺対策の推進(-2億400万、-12.70%)」
「労働災害の防止、労働者の心身の健康確保のための対策(-8億4000万、-10.99%)」等
・削減比率等は小さいものの気になる項目は、
「医薬品・医療機器の開発促進及び安全対策の推進等(-27億3100万、-7.98%)」
「救急医療・周産期医療の体制整備等(-22億5700万、-5.09%)」
「食の安全・安心の確保(-3700万、-0.25%)」
「ハンセン病対策の推進(-15億900万、-3.71%)」といったところ。
こう並べてみると、なんとまあ・・・冷酷な予算構成なんでしょう。
項目をよく見ると「女性」「病人」「障害者」「安全」「自殺防止」「労災防止」といった弱者対策、安全対策、医療の安全性に対する予算が、削減が中心であることが見て取れます。
これでは「埋蔵金ひねり出すために、弱者と安全を切り捨てた」と言われても反論出来ないですな。
これも「事業仕分け」という演劇並の目くらましを使った同様の戦術です。
このように、「たいして中身が無いが大きな注目を浴びている話題」がマスコミを賑わせている時には、本命が隠れていることがよくありますので、どうか皆様ご注意を。
(*1)『民主、補正予算を原則全面停止…未執行分』(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20090830-592896/news/20090903-OYT1T00522.htm
(*2)『適応外使用薬の開発支援653億円が執行停止‐補正予算見直しで』(薬事新報)
http://www.yakuji.co.jp/entry16797.html
特に新生児集中治療室整備の廃止と自然災害対策費の廃止について大きく騒がれていた覚えがありますが、ここまで手広くやっていたとは・・・
頑張ってください。
貴方の年代が、今後の日本の命運を左右するキーになりますので。
>kyokuto_study
鳩研と床屋の話は知ってる。
ただ「新生児集中治療室整備の廃止」は賛否あるし(施設だけ作っても担当出来る小児科医が激減中)、「自然災害対策費の廃止」はいざとなれば官房機密費を含めた予備予算の流用が可能で、しかも年度内に災害がなければごまかせる。
発想は悪くないんだけど、ちょっと掘る方向が違ったかなぁと。
他の省とか掘り返せばもっといろいろ出てくるの判ってるけど、さすがに手一杯お腹いっぱい(^^;
民主党のそもそもの成り立ちは、自民を追い出された人+旧社会党ですので、まったく正反対の人達が「選挙のためだけ」に集まって出来ました。
なので、「(民主党政権の)命をまもる政党」と言う路線は当然なわけです。
拙ブログへ頂いてますリンクは、嬉しいやら恥ずかしいやらです><*
いや、かなり嬉しいですw
>重要なのは「調べるスキル」
例を挙げていただくと、その重要性がより濃く分かりますね。
自分は仕分け一覧に対して斜めに目を通しただけで、直感的に「これは!」と思ったものをエントリーに使いましたが、これだけ理解し易い形になっているのを見ると、自分の今居るレベルも良く分かります。
ムダヅモで言うと、北のオヒキくらい…w
『総額が増えてるのに10%以上削減されている予算』、比較的報道に乗ったものが多いような感じを受けます。
まず前政権への恨ありき?とも思いました。
何かあったとしたら後期高齢者医療制度の責任にしてジミンガー発動とかしそうですし。
学ぶことがいっぱいで楽しいですが、時間が足りないとも思っちゃいますね。やはり…(ノω・;)
北のオヒキ・・・ダメじゃん(笑)
さて、週末に長崎県知事選挙と町田市長選挙がありますね。結果がとても楽しみです。
局長様は長崎県知事選挙と町田市長選挙の結果って現政権に影響があるとお思いになりますか?
民主政権という意味では、地方選挙どころか、参院選も影響有りません。
多くの人が勘違いしていますが、地方選は国政が争点ではありませんし、
国政選挙も衆院で過半数を押さえていれば全て無視出来ます。
だからこそ、おQなんかで投票してはいけないんですけどね。
たくさんの人にぜひ読んでもらいたい記事だと思いました。