2011年07月16日

円高による黒字倒産の原因、『通貨デリバティブ問題』と言う名の悪夢

『通貨デリバティブ』もしくは『為替デリバティブ』、この言葉を聞いたことがある人はそれほど多くないかもしれません。

 けれども、実はこの単語が示すある取引が日本の優良な中小企業を倒産の危機に貶めているという問題があります。この問題についての相談を多数いただいてますが、表に出ない案件が大量に存在していると推定されます。
 そして私の講演等においては数年前より盛んに指摘している通り、「超円高」の発生する可能性は刻一刻と高まっています。

 特に、8月2日にデッドラインがある米国債のデフォルト問題とユーロ圏の金融クライシスといった吃緊の問題が山積している世界情勢においては一夜にして超円高状態が発生する事も予想され、これによって「本業が黒字なのに、通貨デリバティブ(為替デリバティブ)の損失のために円高倒産を余儀なくされる」企業が続出する可能性もあります。

 本ブログで書くのが適当かどうか微妙(まあ経済問題は重要ですし、これまでにも取り上げていますのでいいかとは思いますが)ですが、「こんなことが起こっている」という警告と、相談先が無い(理由は後述)例が多いことを鑑み、このエントリーを掲載することにしました。
 心当たりのある方は、出来るだけ回避の道を模索して頂ければと思います。


◆『通貨デリバティブ問題』って?

 現在は多少マシになっていますが、金融自由化の流れで2003年ごろから銀行は「金融商品」を盛んに売り始めました。
 その主力商品のひとつに「通貨デリバティブ商品(為替デリバティブ商品)」があります。
 これは主に「通貨オプション(為替オプション)」を組み合わせた商品で、投機目的で契約する商品が含まれます。
 その中でも今回取り上げるタイプの「問題になっている商品」には、以下のような共通点があります。

  • 銀行側の損失限定、顧客側の損失無限大
  • 損失が出る場合は利益の2倍
  • 為替に関する商品なのに長期契約
  • 原則解約不可
  • 解約を申し出ると巨額の違約金を請求される

 ここまで読めばわかると思いますが、これがまともな商品であると胸を張って言える人は多くないと思います。

 さらに、これを売っていたのが「信用商売であり、顧客のお付き合いを背景にした銀行」で、販売員が「商品の構成もわからない銀行員」で、買わされた顧客が「輸入業務に携わるが投機の経験など無い堅実で資産のある黒字企業」なのです。

 これを纏めて言うなら『優越的立場の銀行が、取りっぱぐれの無い優良企業に、何も知らない行員を使い、リスクヘッジと偽って投機商品を売りつけた』と言うことです。
 状況証拠から言えば、どうみても「解約まで視野に入れた悪質なスキーム」といえるでしょう。
 新聞等では既に「円高倒産」の多くを占める原因として取り上げられていますが、一応の解決事例として挙げられるのが「解約金の融資を当該銀行から受けて解約」という美人局もかくやといわんばかりの例ばかり。
 これは相談する相手がいないためです。
 もう少し細かく説明するなら「商品や勧誘の問題が専門的過ぎて弁護士が問題点を把握できない」ことと、「被害にあった企業側も“何かおかしい”と思いつつも、その点を上手く弁護士側に説明できない」ことの複合によって銀行の言いなりになる解決を飲む例が多いといえます。
 ウチに相談が来るのは、この「説明が出来ない部分の解消と解決スキーム全体を検討してほしい」というものが中心です。


◆キーワードは『輸入予約』『ノックアウトレシオ』『1:2』『長期(5年以上)』

 上記の単語で二つ以上ピンと来る方、悪いことは言いませんすぐに契約書を引っ張り出して再確認することをお勧めします。
 前述の問題ある商品には“必ず”上記のキーワードが最低でも2つ、多くはほぼ全部当てはまります。
 これらの商品は「ほぼ間違いなく」大損をする商品です。
 各キーワードは以下のような問題点を抱えています。

『輸入予約』
 これが勧誘のお題目に入っているために、銀行側は「この商品は為替リスクをヘッジする目的である」と説明しますし、顧客は「ああ、為替予約の一種か」と理解してしまいます。
 為替予約は「何時何時に○○ドルの為替取引を予約する」行為であり、まさに“予約”ですが、この輸入予約は為替予約の代わりに通貨オプション取引を組み合わせて外貨を調達する商品ですので、商品の本質がまったく異なります。為替予約は実需、通貨オプションは投機です。直接契約書等には為替予約の文言はないと思いますが、逆に書いてないのに勧誘の時点で「為替予約の代りです」とか「リスクヘッジの為に為替予約より有利です」等と言った台詞を聞いたことのある方は要注意です。
 また銀行との解約交渉や弁護士への相談等で「為替予約の経験があるからリスクを知らなかったと言えない」などと言われた方も多いのですが、為替予約と通貨デリバティブ内容も理解に必要な知識も全く別物です。上記の台詞を聞いた方、諦めないで下さいね。

『ノックアウトレシオ』

 為替変動が一定水準を超えたら「自動的に契約解除になる」条件です。勧誘の際に「ノックアウトがついているからリスクのヘッジになる」と説明している例が多いのですが、実はこの契約解除条件は銀行側の損失が一定水準になると発動するだけで、顧客側損失にはついていないのです。顧客側に損失が出るシチュエーションでは青天井で契約が継続します。 だから「銀行側の損失限定、顧客側の損失無限大」なのです。
 たしかにノックアウト付きだからリスクのヘッジにはなりますが、ただしそれは銀行にとってのリスクヘッジにしかなりません。

『1:2』
 たとえば、円安のヘッジとして通貨商品を売った場合(基本的にこのパターンが大半ですが)、基準価格より円安になると顧客の利益(銀行の損失)、円高になると銀行の利益(顧客の損失)になります。
 1:2というのは通貨の購入量の問題で、これが損失の拡大に拍車をかけます。
 1:2の意味は、円高=顧客の損失が出る場合「円安のときの2倍の通貨を購入する」という意味です。当然、短期間の円高でも2倍の損失が発生するために顧客側がこの取引で利益を得るのはきわめて難しいといえます。
 利益と損失の値幅が同じと仮定した場合、10番勝負で「6勝4敗では負け越し」、「7勝3敗でやっと勝ち越し」という条件です。これが公平な条件とは到底考えられません。

『長期(5年以上)』
 通貨の変動は大変予測が難しく、社会情勢の変化に敏感に反応します。このため、通常では通貨予約やオプションなどは四半期単位、半年単位、どんなに長くても1年単位で条件を見直します。
 条件固定での5年以上などという長期契約は、為替取引としてみれば常識を外れている内容で、このような点に疑問を持たない顧客に対し長期契約商品を「為替は変動するので長期的に見ればお得ですよ」といった台詞で契約を促すのは商道徳的にも極めて問題のある行為だといえます。

◆どうして問題が大きく取り上げられないのか

 つい最近でも、北海道の企業が通貨デリバティブの為替差損を支払うことで手元資金が枯渇、取引先に対する支払いに遅延が生じ、取引先から売掛債権の差し押さえを受けるなど資金繰りの悪化が表面化して倒産した件が報道されています。(*1)

 しかし、この問題はなかなか大々的に取り上げられないのは、顧客側にも弁護士やコンサルタント、アドバイザー側にも為替取引等の知識が重要になるのですが、法律の専門家である弁護士でも、金融関連の知識が不足しているために「この契約のどこが問題か」「どこから手をつけてどう対応していいのか」がわからない状態が珍しくないのです。
 このため相談相手や味方のいない顧客は通貨デリバティブ取引で多額の損失を出していても、銀行から解約が出来ない、解約するなら多額の解約金が必要であるといわれると、どうしても言いなりになってお金を払ってしまうこと傾向になります。
 中には「解約金を融資する」として、損失を借入金に切り替える例も続出しています。
 その規模も数億〜百億を越えるレベルなのですが、大変多額の解約金を前に「倒産するよりまし」として銀行案を呑んでいる例が報道でも見られています。 これはきわめて良くない兆候です。
 投機による損失が借入金に変わるのですが、当然担保等をとられることになります。
 そうなれば、銀行としてはどうやっても損失は発生しない「勝ち逃げ」可能な状況になり、顧客(もはや被害者ですが)としては銀行に生殺与奪権を完全に握られた形になります。

 このエントリーの最初の方でも述べたとおり、今後米国債のデフォルト問題やユーロ圏の財政問題等で円高傾向には拍車がかかると予想されます。
 その際には、本業が黒字にもかかわらず「為替ヘッジだと思って契約した通貨オプション取引の損失で倒産する」円高倒産が続出することは想像に難くありません。
 そして、こういった「優良な中小企業は日本経済の原動力」であり、それらの企業が銀行の利益のために黒字倒産するという事態は「日本経済のさらなる弱体化」を意味します。
こういった事態だけは極力避けねばなりません。

 ようやくメディア(*2、*3、*4)等でも徐々に取り上げられつつありますが、訴訟や銀行相手のネゴシエーションが可能な知識がある弁護士、問題点を整理しつつ戦略を練るアドバイザーは絶対的に不足しているのが現状です。
 弁護士から断られたり、「これはちょっと無理だよ」等と言われて落胆し、そのまま泣き寝入りしているという話もずいぶん聞き及んでいます。
 しかし、この問題は充分な準備と戦略があれば対処可能と思われる例も多いのです。
 諦めたらそこで試合終了です。
 心当たりのある企業の方は、是非契約内容を見直し、一刻も早く対策を立てられることを願っております。

  *1 ファーマーズジャパン株式会社 民事再生法の適用を申請 [帝国データバンク]
  *2 中小企業の破綻増加は必至!銀行がはめた為替デリバティブの罠 [ダイヤモンドオンライン]
  *3 中小企業2万社4万件が購入した「日本経済の地雷原」為替デリバティブ倒産が続出 [現代ビジネス]
  *4 中小企業に降りかかる為替デリバティブ損失の重圧(1) [東洋経済オンライン]

[この問題に関する取材、お問い合わせ等は「FumiHawk@gmail.com」(@を小文字にして下さい)までメールでご連絡下さい。]
posted by FumiHawk at 18:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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