この記事の趣旨
7月10日に行われた参議院銀選挙、結果は現役大臣2名落選の自民の勝ちではなく実質民進一人負けの様相でした。
- 新党改革の比例候補、山田太郎さんの得票29万票はオタク・ネット・若者が票になることを「可視化」した
- 選挙は複数の争点を勘案した上で投票するので、単一テーマでの集票は難しい
- 国会に議員を一人送り込むには100万票以上必要で、支持母体の無い現状の方法は限界に近い
7月10日に行われた参議院銀選挙、結果は現役大臣2名落選の自民の勝ちではなく実質民進一人負けの様相でした。
自民が改憲を口にせず、完全に守りの選挙だったことと、対する民進が改憲反対以外は何も打ち出せなかったことを考えると、この結果自体は至極順当だったといえます…ただ一人を除いては。
新党改革の比例候補、山田太郎さん。
人となりや政治身上等はWikiなり公式サイトをご覧頂くとして、一言で特徴を言うのなら「表現規制反対を主張のメインに据えている唯一の政治家」です。
もともとみんなの党の議員でしたが、みん党消滅で紆余曲折あり、一度はおおさか維新に身を寄せたのですが、比例ではなく選挙区での立候補を推し進める党と彼の主張したい内容を考えて比例を希望する意向が調整できず、離党→除名という形になりました。
今回、新党改革からの出馬になったのは、比例での公認が受けられたからでしょう。
【今まで見えなかったオタク・ネット・若者票の「可視化」】
そんな山田さん、第22回参院選での得票が約3万票だったこともあり、下馬評では数万票だろうといわれていました。
主張の中心に表減規制問題を据えている関係上、支持を訴える相手は漫画やアニメに興味のある層やネット住民、若者が主になるからです。
もともと若者は投票率が低いですし、表現規制問題は経済や社会補償問題に比べて一般の人には訴求力が極めて低いテーマだからです。
さらに、永田町の極一部には「42,246票の壁」という呪縛がありました。
これは、第22回参院選でアニメ等に詳しく、ネット・若者代表と目され、大量得票で当選することを期待された自民公認候補が、蓋を開けてみればたった42,246票しか取れなかったことから、「ネット、若者は票にならない」と考えられるようになったのです。
投票後の開票、下馬評を覆し、山田さんが得票したのはなんと「291,188票」、比例の得票では野党トップ、新党改革の得票の約半分を叩き出す快挙となりました。(山田さんに一票入れた身としても大変喜ばしいです)
この得票数は、世間ではオタクの大票田化の可能性と見られたようで、各種ネット媒体でも次に紹介するように早速記事になっています。
山田太郎氏、約29万票獲得も落選。民進党の比例当選トップを上回ったのになぜ?
「オタク層が票田になる可能性示した」 表現規制反対派・山田太郎議員、落選も30万近い票獲得
今回当選はできなかったけれども、29万票の獲得は大変意味のあることです。
さらに、投票した人の中で我々オタクは大きなボリュームを占めているでしょうが、選挙活動の方針上、既存政治家に期待が持てなかった若者や、ネット住民の支持も無視できないと考えられます。
つまり、見えなかった有権者層の「可視化」が起こったのです。
少なくとも、中規模圧力団体と同等の規模の票がいきなり目で見える形で現れたのですから、マスコミが驚くのも無理はありません。
話はそう簡単ではないのですが・・・
【 選挙は複数の争点を勘案した上で投票するので、単一テーマでの集票は難しい 】
今回の得票、単純に「オタクが票田になった」訳ではありません。
山田さんは以前から表現規制反対を訴えてきてますし、議会でも実績を残しています。
創作関連の方々の要請にも応えており、そういったものの積み重ねがこの得票になっています。
なにせ散々世間に叩かれ、なにかにつけて差別され続けている我々オタクですから、単純にオタクが好みそうな主張すれば票田化するなんてありえない事がわかります。
そもそも、夏と冬に開催されるコミックマーケット(通称:コミケ)の参加者が毎回50万人超、漫画の推定販売総額は文庫本の倍以上ですから、そもそも母体としての潜在的な人数は1000万人以上と推定されます。
それを考えると、潜在的な人数の2%強を取ったに過ぎません。
「たった2%強」を取るために、みん党時代から続く山田さんの努力が必要だったのです。
ですので、現状の数字をさらに伸ばすのはとても困難であるといえます。
さらに複数の問題が争点となっている選挙において、「表現規制や著作権法などのコンテンツ関連問題を最重要視する人がどれだけいるのか」という問題もあります。
山田さんの主張は個人的には受け入れやすいものがおおいので、私自身はそれほど投票することに抵抗はありませんでしたが、経済や福祉問題などの主張で方向性が違う場合、表現規制等と天秤にかけて投票を判断せざるを得ません。
オタク票を狙うにはピンポイントでオタクに刺さる主張をしなければなりませんが、刺さったからといってそれだけで投票判断してくれる人はそう多くありません。
山田さんがオタク票を中心に選挙を戦うのであれば、この点が必ず障害となるでしょう。
【 国会に議員一人送り込むには100万票以上必要で、支持母体の無い現状の方法は限界に近い 】
29万票は野党の比例候補ではトップの得票です。各党のエースや、福島みずほ氏といった有力政治家、元スポーツ選手や芸能人などよりもダントツで多いのです。
なのに福島みずほ氏は当選し、山田さんは落選しました。
これは「政治はより多くの票を糾合出来る党に有利に働く」からです。
これだけの票があれば、主要政党なら楽勝で当選です。
しかし、実際には新党改革からのバックアップはほぼ無く、孤立無援に使い状態で「比例」を戦いました。主張の性格上、選挙区ではなく比例で戦うべきという主張は間違いではないと思いますが、単独で勝てるほど政治も選挙も甘くはありません。
以前からお話していることですが、こういうときに票と資金で支援する組織が無いと、絶好のチャンスで当選を逃すことになります。
特に表現規制や著作権問題は生活に直結しないこと、この問題に対しては感情的な反発をする人たちもいるので既存政党ではなかなか主題に取り上げてくれないこと(なので既存の有力政党から推薦を受けてというのも難しい)など、この分野を主な活動フィールドにして政治に取り組む人にはよりバックアップする団体が必要となります。
さらに、仮に他の党から公認を受けるにしても、今回の得票が効果を発揮するのは次の選挙くらいです。可視化されたとはいえ投票は水物、支持団体として大きな人数の支援があるのと、選挙単体の得票では「重み」が違います。
山田さんをはじめ、我々オタクの味方になってくれる政治家へ、票という名の武器を提供し続ける必要があります。
表現規制問題ではもう一人のキーマンである岩城法務大臣も残念ながら落選しました。
当選した民進の増子さんと岩城法相との票差は「たった3万票」だったのです。
もし組織だって支援ができたら、選挙の結果は違っていたかもしれません。
現在の状況は、山田さん一人の、岩城さん一人の、味方になってくれる政治家個々人の力量によって支えられています。
そんな状況が長く続くと思いますか?
現状以上の躍進が期待できると思いますか?
今回の山田さんの29万票は、我々に可能性を見せてくれたのと同時に、現状の延長線上での限界も突きつけました。
喜ばしいことですが、課題もきわめて大きい。
29万票はオタクが社会を変えることが可能である片鱗であり、そろそろ次のステップへ進めというメッセージです。
ゲリラ戦での戦いはもう限界です。
いい加減、手弁当で戦ってくれている味方を見殺しにするのはやめにしませんか?
そのことを真剣に考えるときが来た、今回の選挙の意味はそれに尽きるでしょう。
やればできる、不可能ではない、それを見せてもらったのですから。
ラベル:参議院議員選挙