しかも、今回の更新ネタは経済や情報分析とは別のお話だったりします・・・でも今しか書くタイミングがないから御容赦くださいませ。
筆跡や印影の鑑定、画像や音声の解析なんかもお仕事としてやっているのですが、今回はその中でも「筆跡鑑定」に関するお話し。
そう、例の「小沢氏の奥様(小沢和子さん)の手紙」です。
東スポが、日本筆跡鑑定人協会の根本寛会長に件の件に関して筆跡鑑定を依頼し、手紙は小沢和子さん本人によって書かれたものと断定したという記事が出ています。
ただ記事内に「離婚や事実関係で明らかに間違っている内容が含まれ」という記述があるあたり、いろいろと筆跡鑑定に関する誤解等があるんだろうなぁと思い、じゃあ自分で見てみるか、となった次第です。
【筆跡鑑定って?】
筆跡鑑定は、鑑定資料と比較資料を比べて「両者が同位(同一筆跡)かどうか」を調べます。
これにより、鑑定対象が比較対象と同一人物により書かれたかどうかが分かります。
ただし、その際にいろいろと制約があります。
例えば、楷書体(教科書とかで書いてるアレ)と草書体(古文書とかにあるアレ)を比較しても根本的に文字の形状が違うので判断は極めて難しいですし、文字を書いている方向(縦書きと横書きの違い)や筆記具の違いも考慮する必要があります。
全く意識せずに書いた文字なのか、改まった席で書いた文字なのかでも変動が出ますし、そもそも1割程度の揺らぎは常に存在し、これは個人内変動と呼ばれます。
また、署名や一部の文字が同位の可能性が高くても、文章全体が同一人物によって書かれたかどうかは全体の状況等にも左右されます。この点に関しては、その書面が書かれたと思われる環境や、書面の状態、インクの状態等々を考慮して判断しなければなりません。
良くある話でいえば、資料を提示頂いた際に「似てますよね!」と力説される事が多いのですが、「真似て書いているのであれば、似ているのが当たり前」なので、この判断は全くアテになりません。
別人が書いたと考えられる場合は、無意識に出る特徴的な筆跡形状の違いや運筆が重要な判断基準になります。全体として似ているかどうかはあまり重要ではありません。
同一人物が別人を装って書いたと考えられる場合は、意図的に形状を崩す(韜晦筆跡)ので「無意識に出る特徴的な筆跡形状の類似」などが手がかりになります。
【署名「小沢和子」の比較】
下記は、ネット上で拾った小沢和子さんの署名です。

(画像をクリックすると大きな画像が表示されます)
偽物と書かれている方の署名(以下、ニセモノと記載します)は既にマスコミ等で出回っていますので、資料として本物であるのは間違いないでしょう。
本物とある方の署名(以下、ホンモノと記載します)は、本当かどうか不明です・・・が、それを言い出すと話が進まないので、本物であるということを前提として話を進めます。
《「小」の文字》
本来の「小」は2画目と3画目はハの字に書くとされています。
この点について、両署名とも左側に傾いて「い」の様な書き方を行っています。
また、1画目の入筆方向が若干右斜め下方向に向いている事も特徴です。
1画目の終筆が若干異なりますが、ニセモノは改まった手紙の署名であることも考慮すれば、他の特徴も加味し、似ていると言って差し支えないと思います。
《「沢」の文字》
字自体が違うので、基本的に比較して同位か否か言及することは難しいです。
通常の鑑定であれば、この文字は比較対象から外すだろうと思います。
《「和」の文字》
非常に特徴的な部分が多いので、拡大した画像にポイントを書込んでみました。

(画像をクリックすると大きな画像が表示されます)
1画目、4画目と5画目の位置、6画目と7画目の縦線の方向性等、特徴的な類似点が多いです。
あと、ゴチャゴチャしすぎるので画像に書き損ねましたが、6画目の始筆が7画目の始筆より大きく上の位置から始まっている(口の左縦線が上にはみ出ている)事も特徴です。
《「子」の文字》
1画目と2画目の形状及び繋ぎ、そして3画目の形状と終筆に特徴的な類似点があります。
特に3画目の終筆は、筆を止めたあとに若干上方に抜いているが“ハネではない”点がよく似ています。
《署名全体でいえば・・・》
今回挙げた特徴的な類似点は、同一人物の署名の可能性が高いと言えるだけのものと思われます。
根本的には「本当に似せて書くならもっと似ていなければおかしい」という点もあります。
今回の二つの署名は、同一人物であるなら個人内変動の範囲内で似ているのですが、他人が署名を見ながら書いたにしては似ていないのです。
【署名は小沢和子さんのものである可能性が高いなら、手紙自体は】
さて、手紙の署名は小沢和子さんのものであると判断しても間違いがないと思われます。
ただ「では手紙は本人が書いたものである」となるかといえば、そう簡単ではありません。
過去の例でいえば、署名だけが同一人物というパターンもあるからです。
とはいうものの、今回の手紙が別人に因るものであるなら、内容を鑑みると小沢和子さんサイドから否定のコメントが出ないのはおかしな話です。
名誉毀損や信用毀損で訴えられる可能性もあるからです。
この辺や記事内容も合わせて考えると、個人的には「身近な人や過去に代筆をしてくれている人が書いた文章に小沢和子さんが署名した」あたりが最も可能性が高いのではないかなぁと思ったりします。