2016年08月24日

PCデポの炎上案件における真の問題点はなにか

現在進行形で、PCデポ(PC DEPOT)が何も分らない高齢者にサポートサービスを契約させ、解除を求めたら20万円の解除料を要求された件が炎上しています。
PCデポの株価も急落、ネット上には同社への糾弾が多くみられます。

ただ、糾弾の大半は「高額のサポートサービスを契約させた」「高額の解除料を請求した」という契約や解除の金額に関するものと、「対応が悪い」「顧客が可哀相」といった感情論、さらに「同社はそれ以前から同様の問題起こしていた」といった過去の所行にまつわる物などです。

これまで情報が少なく、しかも被害にあった顧客側からの情報だけでしたのでなんとも言えませんでしたが、今回この問題を報道したヨッピー氏が、Yahooでかなり詳細な事の顛末(http://bylines.news.yahoo.co.jp/yoppy/20160823-00061403/)を発表したので、だいぶ全容が見えてきました。
と同時に、今回の件で問題にすべき部分と、実際に問題になっている部分が結構ズレているのがわかりました。

そのあたりに関して「なにが問題」で、「顧客は何を求めるべき」で「PCデポはどうすべき」だったかをまとめました。
(ただし、前提条件としてヨッピー氏の記事が事実であるという前提です。事実と異なった場合は以下の部分を修正する場合があります。)

なお、以降は極力ヨッピー氏のまとめで判明した事実をベースに感情とか道徳論排して話を展開させますので、少々不快な展開があるかもしれませんが御容赦下さい。


【2015年秋に発生していた事象】

@PCデポと顧客Aの間には、「オールデバイスがっちり得トクサポート&オールワイヤレスプラン」という月額4,150円のサポートプランなどを含めた、月額合計税込5,133円のサポート契約が結ばれていた。

A前述の契約でiPad miniがリースされている。

B前述の契約した頃から顧客Aは認知症になっていた。(それ以前は対象店でたびたび買い物をしていた)

C前述の契約を知った顧客Aの息子は契約解除料なしで契約を解除の上で「父親は認知症を患っているため、今後父親がこのお店に来ても私に無断で契約を結ばせるようなことはやめてほしい」と訴え、店舗側が了承した。


【2015年冬(前述事件の3ヶ月後)に発生していた事象】

D-1使っているパソコンの調子が悪く、修理をしたいということで顧客A一人でPCデポに赴き、店舗の方に修理について相談した結果、月額合計14,245円の契約を結んだ。

D-2店舗側の主張によると、修理の話の最中に顧客Aが「iPadを使いたいから契約したい」というような話をしたらしく、店舗側は「親族に相談してみては」と顧客Aに話したが、「息子には内緒にして欲しい」とおっしゃられた結果、息子の同意なしに契約が結ばれたという商談レポートの記録が残っているとのこと。

E顧客Aは当時の事を覚えていない


【2016年夏(今月)に発生した事象】

F顧客Aの入院、老人ホームへの入居をきっかけに父親の家の荷物整理をしていた息子がこの契約に気付き、契約から8ヵ月が経った8月14日に再度PCデポを訪れ、契約の解除を求めたところ、総額20万円を超える契約解除料の支払いを要求されたため、店舗側に抗議した


このあと、PCデポ側の対応の拙さ等もあって大炎上するのですが、上記の部分が今回の問題の事実のみを列挙したものです。
さて、ここまでで気が付いた方もいらっしゃるかと思いますが、上の事実確認では「高額」や「法外」等の単語は排除してあります。
その理由は、今回の問題の本質は金額の多寡ではないからです。
依頼者Aの息子さんや、ネットでPCデポけしからんとお怒りの方々の大半が「高額の」とか「法外な」という形容詞で発言していらっしゃいますが、問題はそこではないのです。
むしろそこに焦点を当てて糾弾することは、顧客A側にとっては不利なのです。
法外なとか、高額なと言うのであれば妥当な金額を提示しなければならなくなりますし、もっと有利な部分を「金額の問題にすり替えることで誤魔化されてしまう」からです。

では、今回の一件で重要なポイントは何処でしょう。
この流れで言えば、BとCです。ええそれは金額など吹っ飛んでしまうほど圧倒的に。

Bにあるように顧客Aは認知症を患っており、その事実は(ヨッピー氏の記事が事実であるならば)2015年の冬の時点でPCデポ側も認識しており、顧客Aの息子に無断で契約させない旨の約束を取り交わしています(C)。

顧客Aが認知症であることを知り、しかも認知症である事を理由として店舗と家族(息子)との間に「顧客Aは予測・判断能力がない制限行為能力者であるから、顧客A単独での契約は以後行わない」との取り決めも交わされていた上で、取り決めを反故にし、予測・判断能力がない人と契約を交わした…この事が最重要ポイントです。

もし「高額な」という論調になると、では金額が妥当なら(例えば月額1980円とか、解約手数料が4000円とか)なら問題無いのか、という話になります。
今回の一件はそういう話ではありません。
技術の対価は状況と必要度と提供者の技量等によって変わります。
提示された料金を見た人が料金を見て「安い」とか「高い」とか感じることはあっても、犯人共通の妥当な技術料なんて世の中には存在しません。

PCデポの不当な部分は「相手が認知症と知りつつ、家族との取り決めを無視して、相手がそのサービスが必要かどうかの判断できないのをいいことに不必要と思われるサービスを顧客Aに結ばせた」この一点に尽きるのです。

解約料金が高い?
→そんなの後付でその金額になる理由などどうにでもできます。

サービス料金が高い?
→出来る人にとってはタダ同然でも、出来ない人にとってはそれだけの費用を払ってでも人に手伝って欲しいということはあるものです。

サービス内容も分らない認知症の人を言いくるめて契約させる?
→どうやっても言い訳効きません、酷すぎます。

ですのでこの一件でPCデポの行った行為はボッタクリではなく、詐欺行為に極めて近いと言えるでしょう。
金額云々とかじゃなく、そもそも契約が無効だと顧客A側は訴え、PCデポとの話し合いが不調に終わったのなら消費者センターに駆け込むべき事案なのです。
そして、料金が高い等は主観以上のものではないので、PCデポにとってはとても反論や訴訟などがしやすい部分です。
間違った争点で問題を大きくすると、逆襲を喰らうことになります。
これは避けた方がいいと思います。

もう一度言います。
値段の高低は問題ではありません。
認知症としりつつ、詐欺同然に押しつけ販売を行った事が問題なのです。
(ヨッピー氏の聞き取り情報が正しければ)


追伸
その後出てきているPCデポの他の案件についてはそれぞれ別の問題点がありますし、PCデポの商売方法がグレーゾーンの黒側スレスレか若干はみ出している可能性については別の問題で、そこを否定するものではありません。
また、ヨッピー氏の聞き取り情報にも矛盾点が見られますので、よりいっそう対応に慎重さが求められる案件だと考えられます。
posted by FumiHawk at 17:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 情報分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月14日

特定秘密保護法:その目的と対象(おまけで閣議決定の意味)

14日、政府は特定秘密保護法の関係政令(@施行期日政令A施行令B内閣府本府組織令等改正政令)や運用基準を閣議決定しました。
正直、特定秘密保護法は条文読めば解釈云々関係なく理解できるレベルの内容だし、日本が安全保障のために求められている「スパイ防止」を考えたら、全然ヌルすぎる内容です。

にもかかわらず、今回の閣議決定に対し「閣議決定とか国会軽視」とか「軍靴の音が」等々相変わらず特定機密保持法では不可能な事案発生を懸念する意見が散見されたので、ここで「メディア等で(無駄に)心配されている部分」について解説しておこうと思います。

・・・と、その前に今日の閣議決定について。
今日の閣議決定で決められたのは @施行期日政令A施行令B内閣府本府組織令等改正政令+運用規定 等です。
コレについて「国会を蔑ろにしている」「閣議だけで決定するなんて独裁だ」といった現状を全く知らない発言がネット上で見られますが、大きな間違いです。

政令は法律の実施に必要な細則や法律が委任する事項を定めるために、日本国憲法73条6号に基づき内閣が制定する成文法です。
手続きは内閣法で規定され、閣議決定→主任の国務大臣が署名→内閣総理大臣が連署→天皇が公布するという流れです。
ですので、「政令を閣議決定で決めるとか、国会軽視も甚だしい」とか「国会にも諮らずに閣議決定するなんて、独裁政権みたい」といった発言は、全く的を外した法律を知らない発言です。特定秘密保護法が公布された時点で、それを運用するための政令は閣議決定されることが決っている訳ですから。

ということで、本題。

特定秘密保護法は『国家の安全保障に関わる“政府関係機関の持っている”情報が漏洩しないようにする』法律です。政府関係機関からの漏洩防止の法律ですから、一般人が電波ゆんゆんで書いた怪文書や、反政府市民団体の出している文書などは最初から対象にすら成っていません。ほんと、どうして「特定秘密保護法で日本の民主主義が破滅する」みたいな主張に繋がるのか・・・もういっぺん小学校の国語から勉強しなおしてこいと。

この時点で、説明はほぼ終わっているとも言えるのですが、それではあまりに余りなので、「この法律の目的」と「法律の対象」についで説明します。


◆特定秘密保護法の【目的】

この法律は、国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障【(国の存立に関わる外部からの侵略等に対して国家及び国民の安全を保障することをいう。以下同じ。)】に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。[第一条]


もう、キッチリと解釈の余地無く『我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるもの』が対象であると書かれています。
ウチが書いた駄文や、表現の自由云々と全く異なる次元での設定で、どうしてこの法律ができたら「映画が撮れなくなる」とか「作品が作れなくなる」とかいう主張に繋がるのか全く理解できません…ああそういう主張をなさる方々が「国家の安全に関わるような映画や小説」ばかり書いているなら話は別ですが。


◆特定秘密保護法の【秘密に指定する事が出来る対象】

行政機関の長(当該行政機関が合議制の機関である場合にあっては当該行政機関をいい、前条第四号及び第五号の政令で定める機関(合議制の機関を除く。)にあってはその機関ごとに政令で定める者をいう。第十一条第一号を除き、以下同じ。)は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(昭和二十九年法律第百六十六号)第一条第三項に規定する特別防衛秘密に該当するものを除く。)を特定秘密として指定するものとする。【ただし、内閣総理大臣が第十八条第二項に規定する者の意見を聴いて政令で定める行政機関の長については、この限りでない。】[第三条の1]


政令で定めるところにより、特定秘密である情報を記録する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録をいう。以下この号において同じ。)若しくは物件又は当該情報を化体する物件に特定秘密の表示(電磁的記録にあっては、当該表示の記録を含む。)をすること。[第三条の2の一]


ここでも、指定対象は明確に規定されています。秘密に指定する事が出来る対象は『当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもの』で、なおかつ『その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの』となっています。また、記録形式は『文書、写真、及びデジタルデータ』です。

別表(下記)にはどんなモノが対象になるか、更に詳しく書かれています。読めば分りますが、自衛隊の関連の防衛関連の情報と、外交機密、特定有害活動、テロ関連のみですので、国民を弾圧するだの表現の自由が云々だの全く関係なし。
「特定有害活動」は、海外からの不正アクセスによる政府機関の情報窃取を防止するために講じる防護措置、大量破壊兵器関連物資の不正取引を防止するための計画、外国の情報機関から秘密の保全を前提に提供を受けた大量破壊兵器関連物質の不正取引に関する情報が該当しますので、もし「弾圧ガー」とか言ってる人は、国家転覆を狙う革命分子か外国の工作員、もしくは日本征服を企む悪の秘密結社くらいでしょう。


別表1-3

一 防衛に関する事項

イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究

ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報

ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

ニ 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究

ホ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量

ヘ 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法

ト 防衛の用に供する暗号

チ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法

リ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法

ヌ 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途(ヘに掲げるものを除く。)

二 外交に関する事項

イ 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの

ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針(第一号イ若しくはニ、第三号イ又は第四号イに掲げるものを除く。)

ハ 安全保障に関し収集した【国民の生命及び身体の保護、領域の保全若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報】又は条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報(第一号ロ、第三号ロ又は第四号ロに掲げるものを除く。)

ニ ハに掲げる情報の収集整理又はその能力

ホ 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号

三 特定有害活動の防止に関する事項

イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究

ロ 特定有害活動の防止に関し収集した【国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報】又は外国の政府若しくは国際機関からの情報

ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号

四 テロリズムの防止に関する事項

イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究

ロ テロリズムの防止に関し収集した【国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報】又は外国の政府若しくは国際機関からの情報

ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

ニ テロリズムの防止の用に供する暗号


ということで、特定秘密保護法は普通に生活している人には全く関係ない法律であることが分ります。
posted by FumiHawk at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 情報分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月31日

通称『コンピューター監視法案』の恐怖 −修正が加わった現状でも残る問題点−

本日、『情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案』が衆議院法務委員会で可決されました。
 この法案は巷では「コンピューター監視法案」等と呼ばれ、当初の案では「ウィルス作成・取得・保管罪設置」、「わいせつ物基準広範化」などといったかなり過激な内容だった為問題になりましたが、今日通った案ではこれらに付いては言及されていません
 ですが、それでも尚重大な問題が残されており、この点については「プログラムを書いたりしたことのない人には全く想定出来ないが、経験がある人なら背筋が寒く」なります。
 サイバー犯罪に対応すると言いながら、デジタル関連の改正で一般のプログラマを戦慄させる法改正の問題点は以下の通りです。
 まずは『情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案』(衆議院Webサイトより)の中から、該当部分を引用します。

[第二編第十九章の次に次の一章を加える。]

第十九章の二 不正指令電磁的記録に関する罪

(不正指令電磁的記録作成等)

第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

  人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録

  前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

   正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。

   前項の罪の未遂は、罰する。


 非常に分かりにくいので、普通の言葉で説明し直すと以下の通り。

 特に意味が分かりにくいので言い替えて理解することが必要な用語は下記の4つです。
人の電子計算機における実効の用に供する目的プログラマ本人以外も利用可能なプログラム
電磁的記録その他の記録を作成しプログラム自体、もしくはプログラムの作動結果
人が電子計算機を使用するに際してコンピュータ利用者がコンピュータを利用する時に
人の電子計算機における実行の用に供した者ベンダー(プログラム提供者)
 さて、上の4用語を踏まえて分かりやすく書くと、

第百六十八条の二 ソフト利用者本来の目的以外で下記の動作をするプログラムを書いたプログラマ、及びそのプログラムを提供したベンダーは、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金。

 一 ソフト利用者がその目的に沿う動作をせず、又は意図しない動作をするプログラム

 二 前号に掲げるもののほか、同号の不正なコード(プログラム)を記述したソフトウェア

  2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げるプログラムを提供したベンダーも同様とする。

  3 前項の罪の未遂は、罰する。


 こうやって書き直すと、どれだけ恐ろしいか分かると思います。

 この法律案では「意図的に仕組まれたバックドアやウィルス等悪性のプログラム」と「意図しない設計ミスやプログラムミス(バグ)」を同列に取り扱っています。
また、「悪意を持って不正を仕込まれたプログラムを提供したベンダー」だけでなく「バグのあるプログラムを提供したベンダー」も同列に取り扱っています。

 バグは「制作者の意図に反した動作をするコード」ですから、当然「ソフト利用者がその目的に沿う動作をせず、又は意図しない動作をするプログラム」に該当します。
 しかも定義が「ソフト利用者側からの視点のみ」で「プログラマの故意か否か」は完全に無視されていますので、ソフト利用者が「このバグは悪質だから意図的に違いない」として訴えたら単純なバグでさえ要件を満たしてしまうことになります。

 これまでのコンピューターの歴史を見ても、バグはプログラム作成につきものですし、プログラム公開後に新しい技術やアイデアによってそれまでは問題なかった点が脆弱性となる例は枚挙に暇がありません。
 多くの人が利用しているOS「MS-Windows」など、毎月脆弱性やバグ除去の為の修正プログラムを実行するのが恒例行事です。

 法務省WebサイトのQ4の回答文には「この罪は故意犯ですので,プログラミングの過程で誤ってバグを発生させても,犯罪は成立しません」と書いてありますが、その根拠が『正当な理由がないのに』『無断で他人のコンピュータにおいて実行させる目的で』の要件を満たさないからだと言っています。
 しかし、法務省は「バグ放置が提供罪に該当する事態はある」と5月25日の衆法務委員会で回答しており、現時点で既にWebサイトの回答と矛盾しています。衆院法務委員会での「故意かどうかは問わない」と言う見解が政府の認識と考えるのが妥当です。
 そもそも「無断で」に関わる文言は法案にありませんし、どこの世界に「正当な目的で利用者の同意を得てバグを混入させる』プログラマが居るというのでしょう?
 プログラムミスは「正当な理由でない」からミスなのであり、プログラムミス=バグは「利用者に無断で」どころか「制作者が意図せず」「制作者にすら無断で入り込む」からバグ(Bug=虫)と呼ばれるのです。
 現場を全く知らないとしか言いようがありません。

 つまり、この法律案が可決されると『日本のプログラマ及びベンダーは全員犯罪者扱い』になるのです。
 (いや、これまで一度もバグのあるプログラム書いたことねーしという凄腕の方は除きますが)

 さらに、現代はコンピュータがありとあらゆる産業に関連しています。当然、ITと全く関係のない殆どの産業でも何かしらのプログラムが日々書かれているわけで、この法律案の悪影響は日本の全ての産業に及びます。

 こんなの、プログラムを少しでも書いたことのある人にとっては当たり前のはなしです。
 専門家にちょっと話を聞けば、問題点などすぐ分かります。
 しかし、そんな簡単な事すらせずに、日本の産業を全滅させるような危険な改正案に『与野党共に』賛成するとは・・・政治家だからハイテクに疎いとか言って許されるレベルじゃありません。

 知らないなら知っている人に聞けば済むことです。
 こんな大問題を内包した法案をそのまま通すなんて、政治家の見識を疑います。
 政治家の皆さん、政治主導も大切かもしれませんが、より良い政治の為にもなんでも話せるプレーンを付けるなり、シンクタンクを持つなりして、問題の本質を見極める力を持って頂くことを強く強く切望します。

 もしこの法案が通って日本から優秀なプログラマが消え、世界の先端技術競争から取り残されるようなことが起こったら、日本のハイテク産業を殺した戦犯は政治家の皆さんだと言うことになりますよ。
posted by FumiHawk at 15:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 情報分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。