2011年08月19日

メディアに対するデモへの懸念 -あるいは「大人の喧嘩の仕方」-

この記事はTwitterでの発言を纏めて、文字数の都合で説明が足りない部分に解説を加えたものです。
元の発言のまとめは下記になります。
FumiHawk氏の世論の共感を得るのに必要なものとは?


いろいろTLやネットの論調等を見ていて、ふと気になった点をぽつぽつと連投してつぶやいてみるテスト。

21日に予定されてるフジTVへのデモ、個人的にはどんな方向に行くのかすごく心配。
デモって感情の発露とか行動する切っ掛けとしてはいいし、別にやることに対して否定する訳じゃないんだけど、「周囲は敵ばかり」だと言うことをちゃんと考慮してるのだろうか。(*1)

前の中国大使館へのデモもそうだけど「不特定多数が集まる行為は、視覚的に明確に参加者が区別出来ない場合を除いて全て一括りで評価される」わけで。
つまり主催者や関係者がなんと言おうと、その集団の一部の行動が全体の評価につながるし、世間ではそう見る。

左のデモではその辺を、所属組織共通の持ち物やゼッケン等で所属を明示することにより誰が部外者か分かるようにしてる部分がある。
もちろん一体感を上げて組織の結束力を上げることが主眼だが、はからずも部外者との区別を付ける事が可能になってる。

視覚的に部外者との区別が付くなら、部外者が紛れ込んで悪さをしても「この人は部外者です」と周囲を納得させやすいが、そうでなければ「集団の一部」と見なされて、その行為は集団全体の責任になる。
なので、工作員を潜り込ませて暴走させる手が有効に機能する。(*2)

例えば、デモの中のたった一人でも物投げたり、誰かに暴力を振るったり、脱いだりすれば、これ はその時点で世間からのデモの評価は失墜するし、TVはじめとしてメディアはそのように報道するのはこれまでの経緯を見ても明らか。
暴言とかも同様。
メディアが敵というのはそう言うこと。(*3)

保守派が主流になっている状態ならともかく、革命内閣の現状では劣勢に立たされているわけだし、その中で意思表示をすることが重要なのは重々承知の上で、だからこそ非常に危機感を持っている。
なにせ、相手はこういう工作のノウハウは豊富でお手のものな訳だし。


デモでフジTVに対して何を訴えるのか、そこも懸念している。

例えば「韓流ドラマを流す」ことと「スポーツ中継で日の丸を映さなかったり国歌をカットする」のは本質的には全く別の次元の問題。
前者は営利団体であるTV局の判断の範疇だけど、後者は「日本のTV局としてあるまじき行為かつスポーツに対する冒涜」(*4)

なので、韓流ドラマを流すなとか言う方向に主張が向かうと黙殺の可能性が高い。
きちんと国旗と国歌に敬意を払えと言う方向なら他のメディアにも取り上げられる可能性が増える。
デモの目的が周知と抗議であるなら、この辺をきちんと分けて考えないと世論の共感を得にくい。

「公共の電波を使って韓流を…」に関しては、TV局が合法的に行っているのでまた別の話。
こっちは「電波という公共性のある物を利用して自由な営業することを許可している」事の問題で、どちらかと言うと政府に対して法規制を求める方が理に適ってる。
現政権が聞くかどうかはともかく。

また、原則として「お客様とは金を払った人である」点も押さえた方がいい。
地上波民放にとってお客様とは「スポンサー」であって、視聴者はぶっちゃけ客じゃない。
極端な話、視聴率0%だってスポンサーが納得して大金払ってくれるなら経営的にはTV局はそれでも構わない。(*5)

「金を払う=客」と言う意味では、本当はスポンサー収入が無いNHKへのデモの方が有効な戦術。
NHKに対してなら「韓流ドラマ流すな」や「日の丸君が代を尊重しろ」なんかを混同して主張しても問題ない。受信料払ってるんだから、客として番組内容にしっかり主張するべき。

いずれにせよ、ただ集まって感情をぶつけてるだけじゃ子供の喧嘩にしかならないし、強いネガティブな感情をぶつけている様は周囲の無関心層には威嚇と写る。
最終的に勝ちたいならその無関心層を如何に味方に行き入れるかが最重要課題なので、やはり勝つには大人の喧嘩をするしかない。(*6)

日本を救うために保守や国益派の人達に今一番必要なのは「大人の喧嘩をすること」なんだと思う。
士気は高い、意識はある、行動も厭わない…でも、人間の精神力も行動力も等しく有限で、だからこそそれを上手く成果に繋げる事を考えるべき。
21日の講演《青藍会主催セミナー「国益派の為の『大人の喧嘩作法』」2011年8月21日 会場:東急プラザ 8階 AP渋谷 F会議室 (渋谷駅西口より徒歩1分) 渋谷区道玄坂1-2-2 :14時〜16時(開場13時45分) :3,000円》ではその辺の具体的な戦略と戦術を話す予定。


 《 補足説明 》

(*1)
厳密には「敵と無関心層ばかり」です。
お台場のフジTVが観光名所となっている事、デモが夏休み後半の日曜日である事から、周囲にいるのは「親子連れやカップル」が多いと考えられます。
この人達にとってはデモは他人事ですし、威嚇されたり暴言を吐かれたりすれば楽しい休日を台無しにされたと怒るでしょう。
やり方次第では敵を増やす事になりかねないのです。

(*2)
工作員を紛れ込ませて自壊に追い込むとか、陽動して相手の責任にするというのはポピュラーかつ成功率が高い戦術です。
先日のロンドン暴動でもギャングによって同様の手口が使われています。
詳細はTwitterのまとめを参照下さい→ FumiHawk氏による『ロンドン暴動』の分析・考察

(*3)

例えば「都合のいい場面のみつなぎ合わせて報道し、自分たちが被害者だと見せる」とか「画像に嘘の字幕を被せる」とか、これまでさんざんメディアがやってきてる事です。
そんなメディアに対して「公平公正な報道を期待する」こと自体が間違ってます。
韓流ゴリ押し等も含め、そういう捏造やミスリードに怒ってるんだから、当然自分たちの行動も恣意的な報道をされると理解すべき。

(*4)
公共の電波を私物化している点に目をつぶれば、経営状態が危機的な営利企業として制作費が安く韓国政府から資金援助も期待出来る韓流ドラマ等を流すのは理解は出来ます(納得は出来ませんが)。
しかし、スポーツや報道でそれをやるのは話が別。
それこそ「公平公正な立場を放送法で求められているTV局」としては、法律を逸脱してると受け止められても仕方ない行為です。

(*5)
TVの場合、装置産業と煮ている部分として「放送枠を埋めなければならない」点があります。
民間の場合、仮にスポンサーが撤退して番組継続が困難になった場合、新しいスポンサーを見つけて番組を流さなければなりません。
スポンサーに対する抗議で番組が終了した場合、あとに入ってくれるスポンサーを捜すのは困難、理由は自分たちも抗議に晒される可能性があるから。
そうなると、TV局としては広告費用をディスカウントしても新たなスポンサーを見つけなければなりません。
安くなった広告枠、それも既に韓流番組が流れている枠に政府支援もある韓国企業やパチンコ関連などが乗り出してくるのは想像に難くないでしょう。
場合によっては「視聴率無視で金出してくれる」かもしれません、なにせ日本で韓流番組が放送されていること自体が目的な場合もありますので。

(*6)
「子供の喧嘩でもいいじゃないか」という意見もあるかと思いますが、子供の喧嘩の結果、相手にダメージを与えるどころか焼け太りさせてしまう可能性を懸念しているのです。
攻撃したつもりが相手を太らせる利敵行為になるのは好ましくありません。
あとになって「こんなはずでは・・・」といっても、本当に後の祭りで取り返しが付かない事だってあるのです。


 《 関連エントリー 》

 現代日本では、デモ、集会、ビラは戦術として非効果的 -効果のある情報戦術とは-

posted by FumiHawk at 11:27| Comment(4) | TrackBack(0) | 情報戦略・戦術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月05日

情報戦の視点から見た不信任案否決 −党首討論で足りなかった発言とは−

 6月2日、衆議院において野党から内閣不信任案が提出、否決されました。
 民主党内部のゴタゴタ振りは眼を覆わんばかりのひどさでしたし、否決の結果自体には個人的に大変肩を落としました。
 だって、現内閣じゃ被災者救済なんて無理ですから。

 ただ、同時に「自民は王道を取りすぎている。自民党は衆院では議席数で弱者であり、それを踏まえた戦い方をしていない」という違和感をこの一連の動きでずっと感じていました。
 そして、その中には「否決された場合の対処が出来る戦い方ではない」と言う点も引っかかっていました。
 特にアピール、プロパガンダ等情報戦が情勢を左右しかねない局面だったこともあり、今回は「情報戦として観た不信任案否決」について纏めました。


◆情報戦が戦局を左右する一戦

 政治の舞台のプレーヤーは政治家です。
 そして政治家は選挙によって選ばれます。
 選挙で政治家を選ぶのは国民です。
 ゆえに「国民へどうアピールするか」は政治にとって非常に重要になります。

 マスメディアが民主党寄りの報道姿勢であることを考えると、アピールにおける下手な失点はメディアによって誇張拡大されることも珍しくありませんので命取りになります。
 現状の自民党は「如何に失点せず、なおかつメディアの報道で真意を曲げられないアピールをするか」という非常に難しい命題をこなさなければなりません。

 また、今回は民主党の造反議員を如何に巻き込むかが可決のための至上命題でした。
 この点では「民主党議員に対してどのようなアピールを行うか」が重要なポイントでした。

 いずれにしても、今回の不信任案は情報戦が非常に重要だったと言えます。


◆今回のポイント

 不信任案で考慮すべきポイントは下記の2点でした。
  • 大義はあるか?
  • 与党造反議員に大義を与えられるか?
 大義があることをアピール出来なければ、不信任案提出は「党利党略である」と敵に非難されるのは眼に見えています。
 また与党造反議員に大義を与えられなければ、内閣の造反切り崩しを抑え込むことが出来ません。
 ですので、谷垣総裁はこの2点を満たす言動を行う必要がありました。


◆「大義」を成立させる戦術とは

 不信任案を出す事の大義は、時期と言動に分けられます。
 時期に関しては(1)一次補正成立後、(2)通常会期終了の3日前位、(3)二次補正成立後、の3つが望ましいです。
 これらのタイミングであれば、(1)と(3)の場合は「予算が通ったが実行は現内閣では無理」と言う大義が通ります。補正予算は成立しており、被災者救済への影響は最小限に抑えられますので失点もありません。
 (2)は「被災者救済のための会期延長しなかったから」という、更に直球な大義が立ちます。

 と言うわけで、時期的な大義は正直言って今回は立ちません。
 下手すると、復興基本法成立を遅らせたとのそしりを受ける可能性だって有ります。

 なので、ここは言動で大義を与えるべきでした。
 そんなに難しい話じゃないんです。

 (1)党利党略ではない、(2)選挙を望んでいるわけではない、この2点をアピールすれば良い。
 (1)は政治家としての選択と言う事を、(2)は被災者救済のための不信任案であるという事をアピールすることになります。

 具体的には、以下のような発言になります。

 『我々は、行政府である内閣の機能不全により被災者救済に支障が出ていることを憂慮し、立法府としての責務を果たすために不信任案を提出する』と宣言するだけ。

 続けて『我々は「民主党」を責めているわけではない。内閣がきちんと機能するのであれば、震災後の非常事態を乗り切るために団結すると言う選択肢は充分にある。それを妨げているのは現内閣である。』とすればいい。

 これで、先の(1)(2)を満たすことが出来ます。
 ターゲットはあくまで菅内閣、選挙したいからではなく被災者救済の為にと言う大義を立ててアピールすることで、否決されてもなお不信任案提出の正当性が保たれます。

 谷垣総裁も採決前に党本部での記者会見で解散できる状況ではない。解散は、責任ある政治家であれば、選ばないし、選ぶべきではないと述べているのですから、党首討論の場で明言すれば良かったわけです。

 党首討論の場で前述のように明言すれば間違いなくニュースになりますし、その際の引用には「立法府の責務を果たすために」と「民主党との連携可能性を示唆」との内容が入るのはほぼ間違い有りません。
 その部分を外すと不信任案提出の経緯が説明出来ないため省略しにくいので、国民へ大義のアピールとなる事が期待出来ます。

 また、党首討論の場でそのような発言を残しておけば、否決されても「与野党連携を妨げているのは内閣だ」と主張出来ますし、解散うんぬんといった難癖にも「内閣にNOを突きつけたのであって、選挙を求めたわけではない。」と反論出来ます


◆「与党造反議員に大義を与える」を成立させる戦術とは

 与党議員には内閣から否決への圧力が当然あります。
 鳩山氏や小沢氏のグループは不信任案賛成に動いていましたが、最終的には切り崩されました。
 これに対して自民党側から可能だった戦術は多くはありませんが、数少ない戦術の中で最も有効なのは「与党造反議員に大義を与える」ことです。

 これは以前のエントリー【おQ層を説得する『たった一つの冴えたやり方』 -情報戦戦術01-】で書いた内容の派生系になります。
 つまり「造反の大義と言う名の逃げ道を与えて、造反への心理的ハードルを下げてやる」訳です。
 これは、上のエントリーの「マスコミに騙されていた」という逃げ道を与えて、思考の方向性を変えやすくしてあげる手法の変法です。

 前述の発言のように「立法府の責務を果たすために」と「民主党との連携可能性を示唆」をしているなら、あと一押しでこの部分は完成です。
 ポイントは2点「政治家=立法府の責任を思い出せ」と「造反こそが国民のためである」というメッセージを議員に向けて再度伝えること。

 具体的には、以下のような発言になります。

 『民主党の良識ある議員の方々からも、現内閣への疑念や不信の声が聞かれている。民主党の方々、これを正すことこそが立法府の、そして与党である民主党の責務ではないのか?党利党略や選挙政局ではなく、政治家として国民のために行動すべきであるし、この場にいる議員の方々にはそれが可能であると信じている。』

 これで、造反しなかった場合の心理的ハードルが上がり、自民が選挙自体を望んでいないという点で造反への心理的ハードルは下がります。
 また、これだけ言われて造反しなかったら「民主党議員は党利のために政治家としての魂を売った」と追及してあげればいいのです。

 オマケで『不信任案が提出された場合、これに反対すると言うことは、菅内閣のこれまでの言動を支持した上で信任する事である。その点も充分にご承知おきの上で、民主党の方々は各々が国会議員として国民のために最良の判断をして頂くように望む。』と付けられれば、造反しなかった場合の心理的ハードルは更に上がり、アピールとしては満点です。

 せっかく党首討論の場でこれまでの不手際を追及したわけですから、最後にたった数行のメッセージを追加するだけで「国民に対するアピール」と「造反議員への後押し&プレッシャー」を仕掛けられるのです。
 これが情報戦の特徴と言えます。


◆今後さらに情報戦の重要度は増す

 安倍内閣、福田内閣、麻生内閣・・・これらの内閣はやるべき事をキチンとやっていたにもかかわらず、マスコミの「本筋ではない非難」で追い詰められました。
 マスコミの行動は正に「大衆誘導」であり、つまりこれらの内閣は「情報戦で負けた」のです。
 メディア報道がおかしくなって久しいですが、今後この傾向が大幅に修正される事は期待薄です。
 であれば、情報戦戦略は今後の政治にとって、これまでとは比べものにならないほどに極めて重要となります
 そして、偏った報道に誘導されることは国民にとってもマイナスしか有りません。
 今回の不信任案否決は、自民党にとってこの情報戦略に大きな弱点があることを露呈させる結果となりました。
 今後のためにも、自民党には情報戦やプロパガンダ、PRの重要性を認識して頂ければと願ってやみません。
ラベル:内閣不信任案
posted by FumiHawk at 00:23| Comment(4) | TrackBack(0) | 情報戦略・戦術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月10日

反対派がTPPと米国の思惑を切り分けて考えなければならない「たった一つの絶対的な理由」

えらく刺激的なタイトルで、賛否両論の集中砲火を浴びそうですが・・・
このエントリーのカテゴリを「情報戦略・戦術」に分けてあるのをご覧頂ければお判りいただけるかと思いますが、いつもの視点と違い今回のエントリーはTPPの経済的側面等ではなく「如何にTPP反対の世論を動かすか」という視点から書いています。
言い替えれば「TPP賛否という喧嘩の仕方」と言ってもいいでしょう。
なにせ内閣肝いりで総理が世界に向けて「やる」と言ってしまっているので、国民の大多数が反対しなければこの状況は覆せない可能性があります。
このブログをご覧になる方々は、問題意識も高く「自分で情報を収集し、その上で賛否を判断しようとする人達」でしょう。
ですが、大半の人は「TPPの中身ではなく議論している人達の言動だけを見て判断する人達」です。
それが悪いとは言いません、というかそれが普通だとおもいます。
ということは、反対派の論陣の張り方次第で上記の一般層を取り込めるかどうかが変わってきます。
この点に関しては、議論自体は正しくても、ほんの些細な事でひっくり返されてしまう事もあります。


◆本題に入る前提条件

既にご存じかとは思いますが、まず最初にTPPに関してこのブログの立ち位置を。
  1. TPP加盟に関しては米国の思惑や動向に関係なく反対です
  2. 農業の合理化、大規模化に関する論議は否定しませんが、それはTPP加盟による農業壊滅を回避してからの問題でしょう
  3. 地方公共事業依存改善に関する是非以前に、TPP加盟により公共事業による地方景気対策の効果がなくなる点は看過できません
  4. 是非の判断基準は「国益」=「日本国民の利益」で、日本企業の利益ではありません
  5. 「米国の思惑」が有る事は事実で、国益にとってその事は脅威と考えています<ココ重要

◆米国の思惑を是非の根幹理由にしてはいけない「たった一つの絶対的な理由」

それは次の一文に尽きます。

『米国の思惑を理由にしたTPP反対は推進派に逆利用される危険がある』

言い替えれば、米国脅威論によるTPP加盟反対論は賛成派にとっても「米国にとっても」非常に与しやすいのです。

例えば、反対派がTPP加盟すると米国の食い物にされるという理由で一致団結し、世論にTPP=米国の構図を浸透させて反対派を増やしていった場合、米国としては自分たちが加盟しなければ日本はTPPに加盟するだろうと考えるでしょう。
日本の入らないTPPに米国が加盟しても得るものはあまり無く、失うものが大きいので、日本が加盟しなければ意味がありません。
その日本が「米国の食い物に・・・」という論調で反対に傾いたのであれば、自分たちが一旦加盟交渉から撤退し、米国抜きのTPPに日本を加盟させた上、後から米国が加盟するだけで自分たちの目的は達成されます。
当然、米国には後から入っても内部で主導権を握れる力がありますし、その段になって日本が脱退する事が不可能なのはお見通しでしょう。
米国が既に加盟済みならこの手は使えませんが、米国は現在『TPPに加盟すらしていない』つまり部外者ですので十分に可能です。
オバマ大統領は「5年で輸出を2倍にする」と言っていますが、加盟が2〜3年ほど遅れても、日本がTPPに加盟すれば関税撤廃とドル安誘導で充分達成可能でしょう。
米国が脅威と言うのであれは、あの国がこの程度の腹芸すら出来ないと考えるのは間違ってると思いますし、事実これまで米国はもっとしたたかな手段を用いてきている事は、これまでの歴史を見れば明らかです。

TPP賛成派にとっても同様の論調で世論形成が可能です。
経済界も労働組合もTVも賛成に傾いているわけですから、米国脅威論が盛り上がってきたときに世間に対して「米国が問題?なら米国抜きならTPP加盟は問題ないでしょ」と情報にスピンをかければ良いだけです。
それまで「米国に食い物にされるからTPP加盟反対」との論調に心を動かされつつあった人達が「米国抜きならいいんじゃないかな」となるのは非常に簡単ですし、この手のスピンは情報戦における初歩の初歩です。

結果として、TPPの有る無しにかかわらず存在する米国の思惑をTPP反対の根幹に据えたことが、国益を損ない、負け戦につながる事態があり得るのです。

米国の思惑は当然ありますし、それ自体についての懸念は強く同意出来ます。
しかし、この論調は推進派にとって有利な論陣を張る材料になりかねません。
どの国にとっても国益の追及は政府の最も基本的な姿勢です。
他国を犠牲にしても自国を繁栄させたい、自国民の生活を守る為なら他国を食い物にする事も厭わないと言う姿勢は、国際社会において何ら珍しくないものです。
当然米国も自国民及び自国企業の為に外交を行います。それが日本の国益にバッティングすること自体は何ら不思議はありません。
『TPPが日本を壊す』(扶桑社新書)で言及していますが、米国はMBS問題等複数の経済的爆弾を抱えています。
米国はこの「爆弾」による大ダメージを回避する為、また爆発してしまった際に速やかに回復する為に、外需主導の景気回復を狙います。
そして米国が売りたい商品を購入出来る国の筆頭かつ事実上唯一の国が日本です。
当然TPPに限らず米国は日本へ市場開放を要求します。
つまり、米国にとっては日本市場へのアクセス方法が「TPPであろうがFTAであろうが構わない」のです。

「米国の思惑=米国の国益」ですから、これはTPPうんぬんと関係なく“常に存在”します。
TPPによる国益追求が不調ならすぐに別の手段を考えるでしょう。
実際、このブログをご覧の方々でしたら「年次改革要望書」にまつわる顛末等でそれは充分ご存じかと思います。
政府の使命の一つである国益追求が出来ていない日本と違い、諸外国は日本に比べて遥かにしたたかです。
その中でも米国は最もしたたかな国の一つでしょう。
日本の感覚で見ていると国際交渉の場では足下を掬われかねません。
それは政府だけでなく、世論も同様と考えます。

仮に米国が参加しないTPPに加盟したとしても、日本は他の国から奪われる立場にある事はかわりありません。
既に発効しているTPPにおいて、加盟国であるNZの国内が揉めています。
これは新興国有利で先進国不利なTPPにおいて「金持ち国NZ」の国民が他の加盟国に搾取されている事気付いたからです。
日本がTPPに加盟したらNZに替わって搾取される立場に立つのは火を見るよりも明らかです。
新興国は農産物や軽工業品を中心に日本に対して輸出攻勢をかけてくるでしょう。
逆に、相手国の経済規模故に日本側から売れる商品の量は限られています。
さらに円高による日本製品価格の上昇はTPPで廃止される関税より大きいと想定されます。
つまりTPPは『米国の動向に関係なく日本にとってはマイナスにしかならない』のです。
広い賛同を得る為にはこの点を押さえる必要があります。

要は『日本さんが飛び込もうとしている池(TPP)の中にワニ(米国)がいるか、ピラニアの群れ(新興国群)がいるかの違いなだけ』なのです。
ワニとピラニアの群れがいる池に飛び込むのは問答無用で危険ですが、ワニがいなくてもピラニアの群れがいる時点で飛び込むなんて無謀きわまりないといえます。
この構図こそが反対派として多くの一般層に浸透させねばならない点と言えるでしょう。

米国の思惑はあります、しかしそれ以上に「TPP加盟自体が日本にとって大きなマイナスなんだ」と言う事を多くの人に広げて頂ければと思う次第です。



posted by FumiHawk at 11:12| Comment(1) | TrackBack(0) | 情報戦略・戦術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする