なお私のスタンスは「改正に絶対反対」です。
【 団体数28 】
日本動画協会
日本漫画家協会
日本マンガ学会
21世紀のコミック作家の会
マンガジャパン
出版流通対策協議会
出版倫理協議会
全国同人誌即売会連絡会
コンテンツ文化研究会
日弁連
東京弁護士会
東京第二弁護士会
日本図書館協会
社団法人自由人権協会
日本ペンクラブ
日本シナリオ作家協会
日本脚本家連盟
日本劇作家協会
日本劇団協議会
日本舞台美術家協会
日本演劇教育連盟
日本映画監督協会
日本演出者協会
日本児童・青少年演劇劇団協同組合
MIAU(インターネットユーザー協会)
モバイル・コンテンツ・フォーラム
ネットビジネスイノベーション研究コンソーシアム
東京都青少年健全育成条例改正を考える会
【 新聞社数10 】
朝日新聞
毎日新聞
熊本日日新聞
新潟日報
信濃毎日新聞
北海道新聞
高知新聞
西日本新聞
愛媛新聞
日刊ゲンダイ
上の団体名、社名の羅列はなんだか分かりますか?
これ、2010年中に「東京都青少年健全育成条例改正(案)へ反対の意思表明を公表した団体」の一覧です。
団体の多くは反対声明、時に反対シンポジウム等という形で、新聞社は反対社説という形で、世間に向けて表明しています。
ここには東京国際アニメフェアをボイコットしている10社を含めて掲載していない企業、団体もありますし、把握出来ていない部分もあるとは思います。
それを差し引いてもこれだけの数の団体、企業が反対しているわけです。
中には日弁連だの日本ペンクラブだのといった「こんなところも反対声明出してたんだ」という団体もありますし、新聞に至っては朝日、毎日、挙げ句の果ては日刊ゲンダイまで反対しています。
(ちなみに産経新聞は賛成のようです。*1)
反対署名はおよそ16万人分に上り、個別の請願等を含めるともっと多いと思われます。
逆に、改正賛成派の署名は答弁曰く「年々のPTAを含む6042名の署名、その後創価学会の署名運動により4万4千人の署名が集まり、乗り出した」とのことですからおよそ5万名分。
つまり『約16万名の署名と28団体以上の反対声明が、その三分の一にも満たない約5万人の署名に“負けた”』のです。
個人的には「ああ、やっぱりそうなったか」という感じ。
このブログ的な言い方で言うなら、いつも言っているとおり実効性のある戦略を打った賛成派が、実効性のない場当たり戦略の反対派を「政治的に上回った」訳です。
上の一覧を見ても署名の数を観ても賛成派が世論の主流であると言える要素は全くありませんし、しかも反対派は政治信条が保守系リベラル系団体の両方に及んでいるのが分かります。
言い替えれば「既存の右派左派といった政治信条を抜きにした大同団結が、特定の道徳観を持つ少数派に負けた」訳です。
これをもって、民意を尊重しない(以下略)等と言った意見が続出するでしょうが、政治の本質からすればこの結果は至極当然なことです。
なぜなら、政治の本質とは善悪や道徳ではなく「パワーゲーム」に他ならないからです。
今回に関して言えば、民主党の動向がポイントになりました。
6月に改正案を否決したとき、民主党は反対に回りました。
これは「リベラル系の思想は言論の自由により自らの立場を確保している」という意識があるからです。
政府に反対しても逮捕されない、デモや抗議活動をしても多くの場合はお小言で済む、これは表現の自由=言論の自由が日本で保障されているからです。
なので、不要な規制には特に都合悪くなければ(政治信条とは別に)反対しておく訳です。
民主党の反対は信念があっての反対ではないので、「反対することで自分の都合が悪くなる」なら当然賛成派に廻ります。
賛成派は逆転のためにここを突いたわけです・・・「創価学会の署名運動」によって。
6月以降、民主党の支持率は急降下しています、そして来年の4月には統一地方選がある。
このままでは民主党の都議は選挙で落選する可能性が高いのです。
現状の流れでは政治不信が強く、投票率は下がり浮動票の確保は困難です。
そこに「確固たる集票組織を持った団体」からの陳情があれば、当然そちらに便宜を図ることを選択します。
かくして民主党は掌を返し、改正案は可決されたわけです。
都議自民党が賛成派だったのは、もちろん公明党との連携の都合で、ぶっちゃけ自民党にとっては中身がどうかなんて二の次、民主党にとってもご機嫌取って選挙協力が組めれば自分の首が繋がります。
石原都知事も四選するためには出来るだけ強い団体の協力が不可欠ですので、自分の過去の作品は棚に上げてひたすらリップサービスに努めています。
つまり、この問題は保守とかリベラルとかといった次元とはまったく異なる理論で動いているのです。
実際、改正後の12月20日に公明党の山口代表はテレビ番組収録で、石原都知事について「非常に大きな足跡を残された。十分合格点を与えていい」「(四選を目指すなら)自民党と相談する。年齢だけでなく総合力を判断すべきだ」と発言し、今回の改正を高く評価しています。(*2)
一回限りの署名や実行を伴わない反対声明が何十、何万集まろうと、「票を持っている継続性のある団体」の実効性にはなかなか勝つとこは難しいのです。
これは道徳や善悪ではなく「喧嘩の仕方」の問題なのです。
賛成派は喧嘩の仕方に慣れていて、反対派は喧嘩の仕方をまったく知らなかった、そのため私の感想が「ああ、やっぱりそうなったか」に成るわけです。
そういう意味では、東京国際アニメフェアをボイコットしている10社の決定は賞賛に値します。
喧嘩の仕方として実に正しい。
負けているパワーゲームをひっくり返すには、「止まらないと撃つぞ」ではなく「死なない程度に撃っておいてから“次は心臓撃つぞ”」というネゴシエイトも必要なのです。
ただ、これには当然大きな抵抗を覚悟しなければなりません。
そのリスクを企業単体に受け持たせているのはあまりに辛すぎます。
そして本来最前線に立つべき各種団体は、残念ながら業界・同業仲良し倶楽部であり、戦う団体ではありません。
こういったリスクこそ、個別企業やクリエイター個人ではなく「戦う団体」が背負うべきものです。
講演でいつも話している内容で恐縮ですが、「自分たちの権利を守るには、票と金によるロビー活動が必要」なのです。
アメリカで以前最も怖い団体の一つが全米自動車労組(UAW)でした。
なぜなら、この団体はその巨大な団体会員数=有権者(票)と会費(を集約した巨額の金)をバックに、自分たちの権利を守るよう政治家にロビー活動をしていたからです。
現在でも、全米ライフル協会など票と金をバックに国の政策にまで影響を与える組織は多数有ります。
政治の世界というのは、まさに「鉄火場」なのです。
規制は生き物のように常に拡大していきます。
それは賛成派の後進達にとって、規制を勝ち取った先達を越えるには「前より進む=規制強化」でしか評価されないから。
そして行き着く先は思想まで縛る暗黒の体制。
こんな話は歴史を紐解けばいくらでも出てきますし、漫画や小説、映画等の題材にもなっています。
フィクションがノンフィクションにならないと言い切れますか?
ただ声を上げているだけでは、なんの権利も守れない。
本当に大切な物は戦ってでも守らなければならない。
けれども自ら身体を張って戦うことは、戦略以前の問題として極めて難しい事です。
ならば「戦う団体」を作ればいい、直接戦うこと自体は専門の人間に任せればいい。
そこに所属して、幾ばくかの資金と自らの1票を託すことで、間接的に支援すればいいのです。
それをしなければ・・・権利は守られず、未来は閉ざされます。
デモも声明も請願も大いに結構。
しかし真に自分たちの意見を具現化するなら、自分たちの権利を守るなら、鉄火場に乗り込んで同じルールの中で戦うしかないのです。
今回の事例は、その事を如実に示したといえます。
(*1)『【主張】都性描写規制条例 子供を守る当然の改正だ』(産経新聞)
(*2)『都知事は十分合格点、公明代表が高く評価』(読売新聞)
[ 追記 ] 地方選と「票割り」、民主政治というシステム
コメントに「公明党は立候補者をたくさん出してますが」というものがあって、その点について個人的には当たり前のように話を展開していた部分が一般にはあまり知られていないようなので、そこも含めて補足を少々。
地方議会では公明党が与党第一党である自治体が珍しくありません。
これは地方選に顕著な極めて低い投票率と組織票の固さに拠るものです。
地域によっては「ダブルスコアで勝っている」選挙区も珍しくないのです。
そして、選挙では「票割り」が珍しくありません。
これは当選に必要な票を確保した上で、余った票を他の候補者に融通する事です。
つまり、高い得票が見込める候補者の余った票を融通してもらう「争奪戦」は、戦術として一般的にあるのです。
自分たちにとって痛くない条例を通す便宜を図るだけでこの余剰票を狙えるなら・・・あとは説明せずともお判りかと思います。
ちなみに、金と票で政治が動くなんて近現代の歴史を観れば当然。
民主政治における政治家は「当選しなければただの人」なわけですから。
それが正しいかどうかではなく、現在の仕組み上「金持ちに有利に出来ている」のです。
同時に、仕組上は「多数の意見が正しい」と言う理論に基づいています。
だから最終的な決定が「多数決」で行われるのです。
少数意見をくみ上げるかどうかは「政治家の資質」にゆだねられています。
何度も書きますが『善悪ではなくそういう仕組になっている』のです。