2011年12月02日

『世界はマネーに殺される』(扶桑社新書)発売&ちょっとだけ補足

このブログだけでなく、ラジオや雑誌等でもお話しさせて頂いていますが、世界経済は極めて不安定な状況に陥っています。
そして、その最も大きな要因は「金融システムの暴走」であると言えます。

欧州はユーロ加盟国のソブリン債(国債)が破綻の危機を迎えており、救済策もまだ整備されていません。
ギリシャに端を発した国債問題はスペイン、イタリア・・・と飛び火し、このままではユーロ崩壊は時間の問題です。

中国は不動産バブルの末期で、上海の一部の地価は東京を超えたと言われており、買い手が付かなくなった物件の中には価格引く下げを始める物も現れています。さらに、地方では建築業者への代金支払いに遅延が発生している例も見られるなど、まさにいつ泡がはじけてもおかしくない状況です。

米国はこの夏に連邦政府の債務上限到達に伴う米国債デフォルト問題をタイムリミットギリギリの土壇場でなんとか回避したものの、このとき棚上げになった財政赤字削減案を巡って議会が対立。解決の目処は立たず、米国の内向き志向がより鮮明になってきました。

新興国でも投資資金の引き上げ等によって徐々に経済への影響が出始めていますし、国際商品の価格は高止まりしていますが、需要減退によって一時的な急落も考慮せざるを得ない状況になっています。

これら、世界経済の変調は金融システムの暴走が引き起こしています。
実体経済とかけ離れた資金の流れに、金融工学などによるレバレッジがかかり、あたかも経済の主役が金融であるかのように振る舞った結果が現象として現れていると言えます。

人間に例えるなら実体経済は身体で、お金は血液、金融は循環器系であるといえます。

その身体に於いて、「危険なレベルの高血圧と不整脈が起こっている」様な状態が今の世界経済であるといって差し支えないでしょう。
これらの変調の結果、バブル崩壊後に金融分野で出遅れた日本は周回遅れで比較的安全な経済状況で、そのため海外からの逃避資金の流入をはじめとする動きにより円高圧力が極めて高い事態に晒されると考えられます。
そのあたりを含めて、本日扶桑社新書から発売された著書『世界はマネーに殺される』では分かり易く解説しました。
よろしければお手にとってお読み頂けると幸いです。





ただ、その中で少々言葉足らずかなとか、書き損ねたと感じる点がありますので、本の紹介のついでに補足をここに書いてみようかと思います。

大きな補足は2つで、そのうちの一つは「デフレの解消」についてです。

デフレの解消は日本経済にとって非常に重要な問題です。
そして、デフレの主原因は通貨供給量の不足であると言えます。
お金の供給が少なければ、お金の価値は上がります。
オークションで出品数が少ないコンサートのチケットの値段が高騰するのと同じと考えれば分かり易いかと思います。
これへの対応ははある意味シンプルで、通貨供給量を増やせばいい。特に今は各国は通貨安競争を行っているのですから、日本もこれに参加すればいいと言えます。
個人的には日銀法を改正すべきだと思いますし、日銀に過度の独立性を与えるのは良くないと考えています。
通貨政策の目的はあくまで政府によって決められるべきだからです。
ただ、日銀はお札を刷りたくないようですし、政府も政治家も財務省も日銀をきちんと御する事が出来ないのが悲しいところです。
なので、通貨政策を政府の手に取り戻すためにも日銀法の改正がどうしても必要だと考えるわけです。


補足のもう一つの点は「社会保障の政府負担とその財源」についてです。

新興国は低コストでの生産を武器にしていますが、低コストの中心は安い人件費です。
そして、これらの国は給与が安いだけでなく、労働者の権利保護が極めて脆弱、言い替えれば企業にとって人を雇うのに必要なコストがほぼ給料のみであるといえます。
日本の場合、これらの国々に比べて労働者の権利は保護されており、その負担を企業もになっています。
企業が人を雇う場合「給料の5割増しのコストが必要」等と言われていますが、この給料以外の負担は産業の競争力にとって大きな負担となります。
なにせ、ただでさえ高い人件費に3割程度のハンデを最初から背負っているわけですので。
ここを改善する事は、円高でも戦える社会構造を作るために極めて重要であると考えます。
また、社会保障は社会全体が負担するべきものであると考えるのであれば、個々の企業が負担するのではなく、政府が責任持って負担する方が良いと言えます。
企業の負担を軽減する代わりに制度的に雇用の促進や給与の増加を促すような法人税体系を新たに構築し、社会保障費の政府負担と同時に実施します。
具体的には企業規模等を勘案した上で雇用の多い企業や、給与を多く払っている企業の法人税を安く誘導し、少人数で高い利益率を誇る企業には少し高めの税率にします。
これだけみると、少人数で利益率の高い企業が海外に流出思想に思えますが、中間層の所得が増えれば市場は大きくなりますので、前述のような企業にもメリットが生まれます。
そして、これらの施策を実行する場合、財源を消費税の増税によってまかなう事は検討に値するだろうと考えています。
社会保障費の企業負担分はおよそ25兆円で、年金を除くと10兆円強になります。
消費税が5%でおよそ10兆円ですので、給与を5%以上上昇させる施策と併用して社会保障費の政府負担を実施するなら相対的に見て日本経済に対してプラスになると考えられます。
ただし、あくまで「デフレを解消し、雇用と所得を増やす法人税体系を構築する事」が大前提です。
景気低迷とデフレによって税収が低迷しているのは明らかであり、この部分を改善出来れば税収は十分に増加する事から、私は基本的に増税反対派です。

・・・と、補足をいろいろしてきましたが、それらも含めて『世界はマネーに殺される』が皆様のお役に立てば幸いです。



posted by FumiHawk at 01:18| Comment(1) | TrackBack(1) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月16日

円高による黒字倒産の原因、『通貨デリバティブ問題』と言う名の悪夢

『通貨デリバティブ』もしくは『為替デリバティブ』、この言葉を聞いたことがある人はそれほど多くないかもしれません。

 けれども、実はこの単語が示すある取引が日本の優良な中小企業を倒産の危機に貶めているという問題があります。この問題についての相談を多数いただいてますが、表に出ない案件が大量に存在していると推定されます。
 そして私の講演等においては数年前より盛んに指摘している通り、「超円高」の発生する可能性は刻一刻と高まっています。

 特に、8月2日にデッドラインがある米国債のデフォルト問題とユーロ圏の金融クライシスといった吃緊の問題が山積している世界情勢においては一夜にして超円高状態が発生する事も予想され、これによって「本業が黒字なのに、通貨デリバティブ(為替デリバティブ)の損失のために円高倒産を余儀なくされる」企業が続出する可能性もあります。

 本ブログで書くのが適当かどうか微妙(まあ経済問題は重要ですし、これまでにも取り上げていますのでいいかとは思いますが)ですが、「こんなことが起こっている」という警告と、相談先が無い(理由は後述)例が多いことを鑑み、このエントリーを掲載することにしました。
 心当たりのある方は、出来るだけ回避の道を模索して頂ければと思います。


◆『通貨デリバティブ問題』って?

 現在は多少マシになっていますが、金融自由化の流れで2003年ごろから銀行は「金融商品」を盛んに売り始めました。
 その主力商品のひとつに「通貨デリバティブ商品(為替デリバティブ商品)」があります。
 これは主に「通貨オプション(為替オプション)」を組み合わせた商品で、投機目的で契約する商品が含まれます。
 その中でも今回取り上げるタイプの「問題になっている商品」には、以下のような共通点があります。

  • 銀行側の損失限定、顧客側の損失無限大
  • 損失が出る場合は利益の2倍
  • 為替に関する商品なのに長期契約
  • 原則解約不可
  • 解約を申し出ると巨額の違約金を請求される

 ここまで読めばわかると思いますが、これがまともな商品であると胸を張って言える人は多くないと思います。

 さらに、これを売っていたのが「信用商売であり、顧客のお付き合いを背景にした銀行」で、販売員が「商品の構成もわからない銀行員」で、買わされた顧客が「輸入業務に携わるが投機の経験など無い堅実で資産のある黒字企業」なのです。

 これを纏めて言うなら『優越的立場の銀行が、取りっぱぐれの無い優良企業に、何も知らない行員を使い、リスクヘッジと偽って投機商品を売りつけた』と言うことです。
 状況証拠から言えば、どうみても「解約まで視野に入れた悪質なスキーム」といえるでしょう。
 新聞等では既に「円高倒産」の多くを占める原因として取り上げられていますが、一応の解決事例として挙げられるのが「解約金の融資を当該銀行から受けて解約」という美人局もかくやといわんばかりの例ばかり。
 これは相談する相手がいないためです。
 もう少し細かく説明するなら「商品や勧誘の問題が専門的過ぎて弁護士が問題点を把握できない」ことと、「被害にあった企業側も“何かおかしい”と思いつつも、その点を上手く弁護士側に説明できない」ことの複合によって銀行の言いなりになる解決を飲む例が多いといえます。
 ウチに相談が来るのは、この「説明が出来ない部分の解消と解決スキーム全体を検討してほしい」というものが中心です。


◆キーワードは『輸入予約』『ノックアウトレシオ』『1:2』『長期(5年以上)』

 上記の単語で二つ以上ピンと来る方、悪いことは言いませんすぐに契約書を引っ張り出して再確認することをお勧めします。
 前述の問題ある商品には“必ず”上記のキーワードが最低でも2つ、多くはほぼ全部当てはまります。
 これらの商品は「ほぼ間違いなく」大損をする商品です。
 各キーワードは以下のような問題点を抱えています。

『輸入予約』
 これが勧誘のお題目に入っているために、銀行側は「この商品は為替リスクをヘッジする目的である」と説明しますし、顧客は「ああ、為替予約の一種か」と理解してしまいます。
 為替予約は「何時何時に○○ドルの為替取引を予約する」行為であり、まさに“予約”ですが、この輸入予約は為替予約の代わりに通貨オプション取引を組み合わせて外貨を調達する商品ですので、商品の本質がまったく異なります。為替予約は実需、通貨オプションは投機です。直接契約書等には為替予約の文言はないと思いますが、逆に書いてないのに勧誘の時点で「為替予約の代りです」とか「リスクヘッジの為に為替予約より有利です」等と言った台詞を聞いたことのある方は要注意です。
 また銀行との解約交渉や弁護士への相談等で「為替予約の経験があるからリスクを知らなかったと言えない」などと言われた方も多いのですが、為替予約と通貨デリバティブ内容も理解に必要な知識も全く別物です。上記の台詞を聞いた方、諦めないで下さいね。

『ノックアウトレシオ』

 為替変動が一定水準を超えたら「自動的に契約解除になる」条件です。勧誘の際に「ノックアウトがついているからリスクのヘッジになる」と説明している例が多いのですが、実はこの契約解除条件は銀行側の損失が一定水準になると発動するだけで、顧客側損失にはついていないのです。顧客側に損失が出るシチュエーションでは青天井で契約が継続します。 だから「銀行側の損失限定、顧客側の損失無限大」なのです。
 たしかにノックアウト付きだからリスクのヘッジにはなりますが、ただしそれは銀行にとってのリスクヘッジにしかなりません。

『1:2』
 たとえば、円安のヘッジとして通貨商品を売った場合(基本的にこのパターンが大半ですが)、基準価格より円安になると顧客の利益(銀行の損失)、円高になると銀行の利益(顧客の損失)になります。
 1:2というのは通貨の購入量の問題で、これが損失の拡大に拍車をかけます。
 1:2の意味は、円高=顧客の損失が出る場合「円安のときの2倍の通貨を購入する」という意味です。当然、短期間の円高でも2倍の損失が発生するために顧客側がこの取引で利益を得るのはきわめて難しいといえます。
 利益と損失の値幅が同じと仮定した場合、10番勝負で「6勝4敗では負け越し」、「7勝3敗でやっと勝ち越し」という条件です。これが公平な条件とは到底考えられません。

『長期(5年以上)』
 通貨の変動は大変予測が難しく、社会情勢の変化に敏感に反応します。このため、通常では通貨予約やオプションなどは四半期単位、半年単位、どんなに長くても1年単位で条件を見直します。
 条件固定での5年以上などという長期契約は、為替取引としてみれば常識を外れている内容で、このような点に疑問を持たない顧客に対し長期契約商品を「為替は変動するので長期的に見ればお得ですよ」といった台詞で契約を促すのは商道徳的にも極めて問題のある行為だといえます。

◆どうして問題が大きく取り上げられないのか

 つい最近でも、北海道の企業が通貨デリバティブの為替差損を支払うことで手元資金が枯渇、取引先に対する支払いに遅延が生じ、取引先から売掛債権の差し押さえを受けるなど資金繰りの悪化が表面化して倒産した件が報道されています。(*1)

 しかし、この問題はなかなか大々的に取り上げられないのは、顧客側にも弁護士やコンサルタント、アドバイザー側にも為替取引等の知識が重要になるのですが、法律の専門家である弁護士でも、金融関連の知識が不足しているために「この契約のどこが問題か」「どこから手をつけてどう対応していいのか」がわからない状態が珍しくないのです。
 このため相談相手や味方のいない顧客は通貨デリバティブ取引で多額の損失を出していても、銀行から解約が出来ない、解約するなら多額の解約金が必要であるといわれると、どうしても言いなりになってお金を払ってしまうこと傾向になります。
 中には「解約金を融資する」として、損失を借入金に切り替える例も続出しています。
 その規模も数億〜百億を越えるレベルなのですが、大変多額の解約金を前に「倒産するよりまし」として銀行案を呑んでいる例が報道でも見られています。 これはきわめて良くない兆候です。
 投機による損失が借入金に変わるのですが、当然担保等をとられることになります。
 そうなれば、銀行としてはどうやっても損失は発生しない「勝ち逃げ」可能な状況になり、顧客(もはや被害者ですが)としては銀行に生殺与奪権を完全に握られた形になります。

 このエントリーの最初の方でも述べたとおり、今後米国債のデフォルト問題やユーロ圏の財政問題等で円高傾向には拍車がかかると予想されます。
 その際には、本業が黒字にもかかわらず「為替ヘッジだと思って契約した通貨オプション取引の損失で倒産する」円高倒産が続出することは想像に難くありません。
 そして、こういった「優良な中小企業は日本経済の原動力」であり、それらの企業が銀行の利益のために黒字倒産するという事態は「日本経済のさらなる弱体化」を意味します。
こういった事態だけは極力避けねばなりません。

 ようやくメディア(*2、*3、*4)等でも徐々に取り上げられつつありますが、訴訟や銀行相手のネゴシエーションが可能な知識がある弁護士、問題点を整理しつつ戦略を練るアドバイザーは絶対的に不足しているのが現状です。
 弁護士から断られたり、「これはちょっと無理だよ」等と言われて落胆し、そのまま泣き寝入りしているという話もずいぶん聞き及んでいます。
 しかし、この問題は充分な準備と戦略があれば対処可能と思われる例も多いのです。
 諦めたらそこで試合終了です。
 心当たりのある企業の方は、是非契約内容を見直し、一刻も早く対策を立てられることを願っております。

  *1 ファーマーズジャパン株式会社 民事再生法の適用を申請 [帝国データバンク]
  *2 中小企業の破綻増加は必至!銀行がはめた為替デリバティブの罠 [ダイヤモンドオンライン]
  *3 中小企業2万社4万件が購入した「日本経済の地雷原」為替デリバティブ倒産が続出 [現代ビジネス]
  *4 中小企業に降りかかる為替デリバティブ損失の重圧(1) [東洋経済オンライン]

[この問題に関する取材、お問い合わせ等は「FumiHawk@gmail.com」(@を小文字にして下さい)までメールでご連絡下さい。]
posted by FumiHawk at 18:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする